第9話 分身?化身?

 不思議なことが起こりました。目の前のリンゴの木がうっすらと光のような霧のようなものに包まれて、木になっているリンゴの実がぼんやりと、まるで明かりをともしたみたいに光り出しました。それと同時に、おじいさんは口をキュッと噤んで、腰にぶら下げていた例の容器を取り出すと、素早く蓋を開けました。すると、中から光る煙のようなものがシュルシュルと吹き出し、小さな雲の塊のようになって、おじいさんの前に現れました。そして、それは、みるみるうちにおじいさんとそっくりなアナグマの形に変わったのです。それを見ていた、あかどんとみどやんは、びっくりしてその場にしゃがみこんでしまいました。

 一方、リンゴの木はというと、光っていた実のうちの一つが枝から離れてゆっくりと地面に降りてきました。そして、地面に着いた瞬間、まぶしい光を放ちながら、これもまた、アナグマのおじいさんそっくりな化身となって、フラスコから出てきたアナグマのおじいさんの分身と、向かい合った状況になりました。まるで、鏡に向かい合っているようです。ただ、なぜかリンゴの実の化身のほうは、おじいさんの毛色と白黒が逆転していますけど…。

「み、みどやん。な、何が起こってるんだ?」

「ぼっぼっ、僕もよくわからないよ。ああっあっ、あかどん。」

 二匹は、目の前で起こっていることが信じられず、動揺しきっていましたから、自分が何を言っているのかさえもお互いにわからないくらいになっていました。それでも、気持ちを落ち着かせ、その後の一部始終を伺っていようとお互いに目配せをして、黙って一緒に立ち上がりました。

「おじいさんのそっくりが、二つもでてきたぞ。みどやん、どうなってるんだ?」

「どうしよう、あかどん。おじいさん…大丈夫…かな?」

「そうだ、俺たちがしっかりしないとな。」

「そうだよ、何かあったら僕たちでなんとかしないと。」


 どうやら、こんな頼りない二匹でも、おじいさんのことは心配だったので、いざとなったら、いっしょに抱きかかえてでも逃げるくらいの覚悟ができたようです。

(第10話に続く)


 

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