第4話 蒼が紅で、紅が蒼に
さっきからずっと腹を抱えて笑っているあかどん。そこをめがけて何か光るものが、すーっと音も立てずに飛んできました。そして、あかどんの頭の後ろに見事にコツンと命中しました。当たったはずみでしょうか、目から火花が飛び散るほどの衝撃が、あかどんの全身に走りました。そして、それは地面にポトンと落ちてコロコロと転がりました。
「いっ、痛いな。なんだ、なんだ、なんなんだよ。」
あかどんが振り向いて見ると、それは真っ赤なリンゴでした。
「誰だ、誰なんだよ。こんなもの投げやがって、おいっ。当たり所が悪かったら、大けがするだろ、こんちくしょうめがっ!」
と、周りを見回してみましたが、誰も何もいませんでした。川の中の、みどやん以外にはね。その、みどやんが目を大きくまん丸く見開いて、川の中に突っ立ったまま固まったようになっています。そして、何か言おうとして口だけが開いたままピクピクしていましたが、ようやく、しどろもどろに、こう言いました。
「あっ、あかどん…あああっ、あっ、あおあおあお。」
あかどんは、頭の後ろをさすりながら、みどやんのほうを見ました。さっきまでとどうも様子が違うのです。
「えっ?何だって?みどやん、どうしたんだ?」
「あっ、あっ、あっ、あおあおあ…。」
「おい、しっかりしろよ。俺があんまり笑いすぎたから、頭にきて、とうとうおかしくなっちまったんじゃないだろうな。」
「そっ、そうじゃなくて、青くなってるんだよ。」
「えっ?何、何が?何が青なんだよ。」
「だっ、だから体、手を見てみなって!」
「何?手だって…んっ?あーっ!」
なんと、手が真っ青になっています。他にも首から下、尻尾まで青くなっているのに気づきました(それから、自分では見えませんが、頭や首もね)。
「な、なんで?なんで青なの?どういうこと…???」
頭が混乱して、おかしくなってしまいそうでした。でも、きっと川の水で洗い流せば、元の毛色に戻るに違いないとそう信じて、バッシャバッシャと全身を洗いましたが、いくら洗っても全く元には戻りません。却って、みどやんの元の毛色のような蒼に近づいているようにも思えてきました。全身ずぶ濡れになって肩を落としたあかどんは、みどやんに向かって、力のない声で言いました。
「さっきは、笑って悪かった。お前の気持ちが、今、すごくよく分かる気がするよ。ごめんな。」
もうお昼過ぎて、だんだん日は傾いてきました。森の小川には、びしょ濡れになった蒼いキツネと紅いタヌキが黙って静かに佇んでいます。そして、小川のほとりの地面に落ちている真っ赤なリンゴ。それは川上から吹いてくる心地よい風を受けながら、二匹に何か語りかけるように、ぼんやりと優しく光っているのでした。
(第5話へ続く)
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