第3話 紅が赤を笑う

「なんだ?ずいぶんうるさいなぁ。せっかく気持ちよく寝ていたところなのに、なんだっていうんだよ、まったく…。」

 リンゴの木の反対側で眠っていた、あかどんが目を覚ましました。川の方から聞こえたバシャバシャという水の音と、真っ赤なタヌキの大きな泣き声のせいでしょう。

「よっこらしょっと。」

 あかどんは、ゆっくり起き上がると耳をピクピクッとさせて、声のする小川の方へ歩き始めました。大きなリンゴの木の反対側へ、ちょうど回り込むようにして歩いて行くと、声の主が小川のほうにいるのが見えました。

「誰かいるな…泣いてる?泣いてるみたいだ。」

 そう言って、さらに近づいて行きました。小川のほとりに近づいて、それが自分と同じような色の動物であることに気づきましたが、何せ、そんな色の動物と言えば、自分を除いたら、この森の中にいるはずもなく、茂みの陰からそうっと恐る恐るのぞき込んでみました。

「あぁ、タヌキじゃないか。だが、見たことのないやつだな。余所から迷い込んだのかな?」

 そう思って周囲を見回しましたが、他に仲間らしき者が見当たりませんので、ちょっと声をかけてみることにしました。一応用心のため、顔だけそっと茂みの横から出してコホンと一つ咳払いをしながらね。

「あー、えーとその、なんだぁ。うーん、どうしてそんなところで泣いているんだい?そこの君。僕でよかったら話を聞こうじゃないか。」

 その聞き覚えのある声に気づいたみどやんは、茂みから顔を出している紅いキツネを見て思わず、

「あかどん?」

と、かすれたような声を漏らしていました。泣きすぎて、声までカラカラに涸れてしまっていたものですからしかたありませんよね。それを聞いたあかどんは一瞬ためらいながらも、小川の中に佇んでいる紅いタヌキをしばらくじっと見つめて、それが誰なのか、ほぼ確信しました。

「おっ、お前、ひょっとして、みどやんか?えー、なんでまた、そんな色になっちまって、それじゃ色だけみてりゃあ、俺様とちっとも変わらんだろう。だが、なんだそのしみったれた面は?森一番の蒼いタヌキが聞いてあきれるぜ。」

 そう言って、みどやんの気持ちも考えずに大声でギャハギャハと笑い始めました。  


 笑い声は小川のまわりの冷たい風に乗って、川下の方まで流れていくかのように森じゅうに広がっていきましたので、辺りにいた山鳥たちがびっくりして次から次へ、バサバサバタバタと飛び立っていきました。

(第4話へ続く)


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