第2話 蒼が赤で、赤が蒼で

 どれほど時間が経ったでしょう。地面に落ちてしまったみどやんは、やっと意識を取り戻しました。どうやら命に別状はなかったようです。近くには、先ほど一緒に地面に落ちたと思われる、青いリンゴが一つ転がっていました。

「ああ、いたたた…まいったなあ。あしをちょっと挫いたみたいだ。」

 ひょこっと立ち上がって足下を見て、自分の目を疑いました。

「えっ?ちっ、血まみれっ!?」

 なんと、足の毛色が真っ赤になっているのです。でも、すぐにそれが出血によるものでないことに気づきました。血にしては色が鮮やかすぎるからです。それにしたって、今の今まで蒼だった毛の色が真っ赤になっているのですから驚きますよね。しかも、元の色は、まるでどこかへ消えてなくなってしまったかのようなのですから、なおさらです。いずれにしてもこのままでは、どうにもこうにもなりはしないので慌てて近くを流れる小川にむかいました。そして、水の中へ入っていく時、水面に映った自分の姿を見て、びっくり仰天。それもそのはず、そこに映っていたのは頭の先から尻尾まで、真っ赤な色のタヌキだったのですから。

「な、なんで?なんで赤なの?どういうこと…???」

 頭が混乱して、おかしくなってしまいそうでした。でも、きっと川の水で洗い流せば、元の毛色に戻れるに違いないとそう信じて、バシャバシャと水の中で全身の毛を洗いました。ですが、いくら洗っても一向に赤い色は落ちません。むしろ一層、朱や紅に近い鮮やかな色になってきているようにも思えてきました。全身ずぶ濡れになり、途方に暮れたみどやんは急に悲しみがこみ上げてきてしまったのでしょう。川の水とも見分けの付かぬほど、たくさんの涙を流して、おいおいと泣き始めました。


 向こうのリンゴの木の下の地面には、先ほどの青いリンゴが一つ、木々の枝の合間から差し込む日差しを受けて、異様なほどにつやつやと、そしてきらきらと光っているのでした。

(第3話へ続く)

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