紅と蒼のキツネとタヌキ

私之若夜

第1話 大きなリンゴの木の下で

 昔々あるところに、紅い毛色をしたキツネと蒼い毛色をしたタヌキがいました。ふつうキツネやタヌキは白、黒、灰色や茶色のような地味な色をしているものがほとんどなので、この二匹は、とかく目立つものですから、仲間内ではとても有名なのでした。そして、紅いキツネは「あかどん」、蒼いタヌキは「みどやん」とみんなから呼ばれて親しまれていました。決して、変わり者扱いをして仲間外しをしたり、毛嫌いをして意地悪なことをしたりなどということはありませんでした。だから、二匹ともとても安心して楽しく暮らしていました。


 そんなある日、モンシロチョウを追いかけて遊び疲れたあかどんは、村の外れにある大きなリンゴの木の根元で休んでいるうちに、うっかり居眠りをしてしまいました。そこへ、反対側からやってきたのは、タヌキのみどやんでした。リンゴの木にはちょうど食べ頃の、よく熟れたリンゴがいくつかなっています。


「おいしそうだなぁ。甘いんだろうなぁ。」


 みどやんのお腹がぐうぐう鳴りました。リンゴがなっているのは手の届かない高い場所ですから、とるには長い棒でたたいて落とすか、木に登るぐらいしか方法はなさそうです。辺りを見回してみましたが、そんなに長い棒は見当たりません。


「木に登ってとるしかなさそうだなぁ。」


そう言うが早いか、ささっと木によじ登り、一番下の太い枝に乗り上げました。みなさんがタヌキの木登りをご存じかどうか知りませんが、みどやんは木登りが上手で、この辺りのタヌキの中ではおそらく右に出るものはいないと言われていました。だから、こんなのは造作も無いことだったのです。そして、伸び上がると一番近くにある熟れたリンゴを一つとって、ムシャムシャと食べて味見をしてみました。


「思った通りだ。これは、旨いぞ。どれっ、もう一つ…。」


と、そのちょっと上にある真っ赤に熟れたリンゴに手を伸ばしたその瞬間、バランスを崩して、リンゴと一緒に地面に落ちてしまいました。これが有名な「ニュートンの万有引力の法則」というものです。そして、どうやら落ち方が悪かったのか、みどやんは、そのまま気を失ってしまいました。猿ならぬタヌキも木から落ちるとは、名人でも油断をするとこんなこともあるというよいたとえですね。(第2話へ続く)

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