完璧な私の仮面は

「ここについてどう思うかな?それじゃあ、海月さん」


たくさんの視線が私に集中する。胸がどくどくと高鳴る。エゴサする時の胸の高鳴りとは似て非なる悪質な鼓動が脈打つ。


私の発言によっては彼らは失望の眼差しに手のひらを返すだろう。無条件の承認はここにはない。教授によくわからない言葉でカバーされるのも、学生を困らせるのも私を歪ませるから好きではない。


「この問題に関しましては…」


教授が満足げに頷く。ある学生はそれに倣い、またある学生は目を逸らした。


私は優秀な学生。そのイメージを壊してはならない。的外れなことを言って呆れられるわけにはいかない。


自撮りも完璧に。美しく。


授業も完璧に。聡明に。


これでいいんだ。私を守ることができた。


みんなが求める私を。


この仮面を外すのは好きな人の前だけだから。


それなのに、今日ゆかりの前で私の仮面は外れかけた。


彼女の前では、私は完璧なオタク仲間でいなければならなかったのに。


ゆかりが紫音くんと幸せになる未来なんて見たくない。そんな未来は必要ない。


その未来は私のためにあるのに。


3回目のくしゃみなんてくだらない呪いにムキになってしまう自分がとてつもなくくだらなくて惨めだった。


私は仮面を付け直して、また彼女の完璧な友人にならなければ。


机に置いてあったスマホが震えて机が不快な音を立てた。


『今日は外食しない?』


その通知に仮面の奥底でため息をつく。実を言うと、「彼」の前で仮面を保つのが一番苦しい。


昨日も営みを迫られた。好きでもない男に迫られることは気持ち悪さしかない。毅然とした仮面を貼り付けて、ヘラヘラとしている「彼」を見る。私の胸は震え

ていることに彼は気がついていない。最近、彼に手を握られるたび悪寒が走る。「好き」と言われるたび、吐き気がする。


私は彼を心で拒んでいる。


だから、お金の代わりに「彼」を受け入れる取引も限界だと私は悟っている。


それでも、私の運命の人の前で仮面を外して本当の私になるまでは、この取引も続けなければならない。


あの2人のどちらかとなら、私は本当の私になれる。


運命の人は私。


だから、仮面を外して微笑むその日まで、私は生きながらえるのだ。



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