赤い靴
明日香が出ていき、一人ぼっちになった私は考える。最近は明日香と一緒にいる時間が増えていたから、こんなことは久しぶりだ。
一人になると昔の自分のことを思い出す。だから一人の時間はあまり好きではない。昔の私はもっとしっかりしていた気がする。だけど、友達があんまりいなかったのは今と変わらなかったなと思いをはせる。
小学生の頃、私は学級委員長をやっていた。やる人がいなくて、仕方なく。先生の視線が私の瞳を射抜いていたから。
―しっかり者の秋葉さんならやってくれるよね?ほら手を挙げて?―
脳内に入り込んできた先生の声に操られるように手をまっすぐ上に伸ばした。その時の先生の顔を見て、前日に読んだ絵本のことを思い出す。先生の意のままに動かされる私は赤い靴を履いて踊らされているみたいで不愉快だった。
「それじゃあ、学級委員は秋葉さんでいいかな?」
私と同じように赤い靴を履いて踊らされている集団が手をたたく。誰一人例外などいなくて私は気持ち悪くなった。
でも、あの時教室にいなかった少年のことはもしかしたら例外だったのかもしれない。彼が教室にいたら、他の子たちと同じように拍手していたかもしれない。だけど、そんなことはわからない。私の中に残った真実は彼が赤い靴を履いて踊らなかったということだけだ。彼は『真面目』で『しっかりもの』のレッテルを張られた私の唯一の光だった。
彼は教室に戻ってくることはなかった。そして卒業と同時に私のそばからいなくなった。風の噂で彼が中学受験をしてはるか遠い中学校に行ったと聞いた。ジュケンというその響きが当時の私には何の意味も持たず、ただ私の知らない世界に行ってしまったという虚しさだけが残った。
彼はどうしているのだろうか。私の知らない世界で赤い靴を履いていないことを祈るばかりだ。私は彼に希望を持ち続けていたい。そんなくだらない希望を押し付けて、今日も私は踊り続けている。
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