卒業
姉の葬儀の後、母の手に握られていたくしゃくしゃになった手紙を開いた。
『お父さん、お母さんへ
先立つ不幸をお許しください。私はいじめを受けていました。高校に入ってからずっとです。3年間の我慢だと思ってた。でもそんなことなかった。私は本当に気持ち悪くて死ぬべき存在だった。クラスメイトに言われた言葉は本当だった。この3年は耐えきった。でも大学受験にも失敗して、この先、生きていても私は皆に迷惑をかけるだけだと思う。だから、これ以上誰にも迷惑をかけないうちに死にます。でもお父さん、お母さんには最後まで迷惑かけちゃうね。許してほしいです。ごめんね』
『明人へ
明人は私が死んだこと悲しんでいるのかな。私なんてふがいない姉、いない方がよかったよね。明人は明るいけど私は不愛想で、勉強もできないし、お姉ちゃんらしいこと何にもしてあげられなかったし。明人はゲーム好きだから、一緒にゲームするの楽しかった。私はあなたと一緒にいる時が一番楽しかった。ありがとう。私が死んでも元気でね。』
俺はこの手紙を読んだ日から、それまでの人生を卒業した。
名前の通り明るい性格だった俺の性格を卒業した。一番姉のそばにいたはずの俺が姉の苦痛に気が付かなかった。そんな俺に今までの人生を今まで通りに楽しむ権利があるはずもなかった。
俺は入学予定だった高校への入学を辞退した。中学を卒業し、第一志望の高校に入学を決め、軌道にのっていたはずの人生のレールから卒業した。
部屋に引きこもるようになった。部屋の外から両親の断末魔が日々聞こえた。姉の死に対して発狂し続ける母と俺を想って冷静を装おうとする父の争いは不毛で、俺の心に確実な闇を宿した。
「どうして!どうして!どうして!どうして!沙織…」
「なあ、明人。さっきサッカー部の子から電話があったぞ。お前の携帯に電話したけど反応がないからって。気晴らしに遊びに行ってこいよ…明人…」
毎日、母が泣き狂い、父は偽物の笑顔を見せる。
そんな繰り返しが俺を苛んでいった。
同時に姉に懺悔するため死ぬことを決意した。
でも死ぬことはできなかった。
刃先を自分に向けると戦慄が走る。
ネクタイを首に巻いてきつく締めると涙があふれた。
怖かった。
だから、どうしようもない俺が選んだ姉への懺悔が、今までの人生を捨てることだった。
姉が人生を卒業したように、俺も人生を卒業した。
生きながら死ぬ人生が俺にはお似合いだと思った。姉と一緒に買ったゲームソフトを握りしめて静かに泣き叫んだ。
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