執念

私は彼が去った夕方の公園で茫然と立ち尽くしていた。


「あれ、完璧にサナさんから逃げてますよ。現実逃れってやつ?」


うるさい。


「でもよかったですよ。俺いなかったら、サナさん今度こそ、やることやって逃げられてたかも?なんつって」


うるさい。うるさい。


「今日のこと、ネタになりますねー。女を呼び出しておいて逃げたクソ男ってサムネ作ったりしたら…」


「黙れえええええ!!」


目の前の男がうるさい口を真一文字に結んだ。でもそれも一瞬のことで、すぐにその汚らしい口を開いてけらけらと嗤った。


「あーあ。やっぱメンヘラ女ってキレると怖いですねー。」


烈火のごとく燃え上がる私の耳にシャッター音が響く。


「やっぱ、これサムネにしますよ。キレてるクロミネリアコメンヘラ女の実態つって動画投稿したらバズりそうだし。暴露を悟って逃げたクロミネのことも取り上げて大々的にやろうかな。そしたらあいつもファンも今度こそ終わりだろうなー。もちろんお前も。」


彼の瞳は卑劣にゆがんだ。来た時には夕焼けの光に照らされていたはずの公園が黒光りする。


「やめて」


喉がかすれてかろうじて出たその声が、彼を一層悦ばせていることは明らかだった。


「じゃあ、土下座してくださいよ。さっきの八つ当たりの非礼、詫びてください。そうすれば赦してあげてもいいですよ?」


私は先ほどの喧騒が消えたとはいえ、人はまだ残っている公園で膝をついた。


頭を地面にこすりつける。


彼の足が地面から離れ、私の頭にかぶさってくる。


「何してるの!?」


誰かの甲高い声が響いて、男は足をどけた。そして足早に逃げていく。


「大丈夫?」


主婦のような女性は軽蔑と哀れみが混じった瞳で私を見つめている。


その瞳に吐き気がして私もその場から逃げ出した。





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