幻、のちに現実
時計を見上げると針は6を指していた。夕焼けが視界いっぱいに広がる。
あの日の公園で今度は「偶然」ではなく、「必然」に彼女に出会うことになる。
「あの」
声のする方向に視線を下げる。見覚えのある彼女の微笑みがそこにあった。
遊んでいた子どもたちが帰っていく夕方特有の喧騒があたりを包む。その喧騒から隔絶されるように俺たちは存在している。
「クロミネさん、会ってくれると思わなかった。」
返す言葉が見つからず、俺は何かに支配されるように微笑み返す。
「今日はクロミネさんに会ってほしい人がいるの」
その言葉を聞いた瞬間、俺は喧騒の中に引き戻された。まるで二人だけの世界が、ガラガラと音を立てて崩れていくように。崩壊する世界の先に男の姿が見えた。
「彼氏?」
俺の中からひねり出された精一杯の言葉は彼女のあざけりに一蹴された。
「そんなわけないでしょ。」
彼女の姿からは想像もつかない威圧にひるんで後退する。この間は暗くて彼女の表情がよく見えなかったが、今、夕焼けに照らされた女の顔は恐ろしいほど真っ赤に染め上げられている。あの日の彼女は俺の錯覚だったのかもしれない。
「どうも!」
俺たちの間に割って入ってきたその男は、無害で陽気な男のように見えたが、どこか末恐ろしさを感じる。
「俺、動画投稿してるrenyaっていいますー」
その刹那、俺は気が付くと走り去っていた。後ろで男と女の笑い声が響いている気がした。
それが現実なのか、幻聴なのか、俺には判断がつかない。
息が切れて頭の中に雑念や声が流れ込んできた。彼女の罵倒。男の嘲笑。
耳をふさいで全速力で走る。
気が付くと、家のベッドで倒れこんでいた。
「死ね」
悪魔になった彼女の声が、誰かの声と重なる。
その声は愛おしい、守りたかった「あの人」の声だった。
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