再会
おじいさん先生が楽しそうに雑談を繰り広げている。前の席の男の子が机の下でスマホを触っていた。その隣の女の子は他の科目の勉強をしている。
おじいさん先生のおしゃべりが広い講義室に切なくこだました。マイクの反響が耳に痛い。
ふと隣から気配を感じる。先週私の隣に座ったあの子が小さく会釈していた。
私も小さく会釈して、おじいさん先生の方に視線を向けなおす。
あの子がスマホを差し出す。
「また会いましたね」
小さく頷くと、彼女は再びスマホを操作する。
「この間のお誕生日配信見ましたか?」
再び頷く。彼女はまた何かをメモアプリに打ち込む。
「おかしかったですよね。二人とも。紫音くんは配信を逃げるように切ったし、クロミネくんもゲームを途中で放棄してたし。」
私は思わずスマホを手に取り、彼女に倣ってメモアプリに文字を打ち込む。
「見ましたか。あの投稿。」
彼女は怪訝そうな顔をしてスマホに向き直った。
「あの投稿って?」
彼女と一瞬目が合った。不思議そうな表情をしている。思えばあの投稿は、フォロワーが少ないアカウントからの投稿だった。そこまでの拡散力はなく、私自身もハッシュタグを検索したことであの投稿を見つけた。彼女が知らないのも無理はないのかもしれない。
彼女が再びスマホを私に見せた。
「良かったら授業の後、お話しませんか。」
再び目が合う。私は頷いた。
授業後、チャイムが鳴ると同時に彼女は私に微笑みかける。
「こんにちは。食堂でも行きますか?」
私は小さく頷くが、彼女は私の反応を見るより早く歩き出していた。
私は食堂のおばちゃん手作りのショートケーキを手に彼女が待つ窓側の席に座る。
「おいしいよね、そのショートケーキ」
いや、しょっぱい。いつもは甘くておいしいはずのショートケーキが後味悪く口に残る。
「あなたが言ってた投稿ってこれ?」
彼女のスマホには偽りの花嫁が不適に微笑んでいる。吐き気がした。さっき食べたいちごがせりあがってくる。
「イタイね。好きならこんなことせずに自分磨きでもすればいいのに」
溜息をついてコップの水を飲み干す彼女の横顔はどこか悲しげに見えた。
「私、明日香っていうの。同じ紫音くんファンとして仲良くしたい。」
そういいながら彼女は私のカバンに視線を移す。
「よろしく。」
彼女の微笑みは私の心に痛く刺さった。
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