同じ
「無視しておいたらいいよ。クロくんが構ったら調子に乗るよ。」
携帯を見つめてうなだれる彼の背中に声をかける。その背中はどんどん小さくなっているように見えた。
「それにしても悪質だね。警察に通報する?」
クロくんは静かに首を横に振る。彼の手にかろうじて握られているスマホから見えた写真に写る何本もの赤い筋。それが彼の精神を蝕んでいることはわかり切った事実だった。
「コーヒーでも入れてこようか?」
今度は首を縦に振った。見慣れたキッチンの見慣れたコーヒーメーカー。豆を入れるとガガガガと心地の良い騒音が鳴り響く。
「しー。」
ガガガガ。
「俺、…にもう…会おうと思う…。」
僕は思わずコーヒーメーカーの電源を落とした。
「今なんて?」
「会おうと思う。こいつに」
ようやく顔を上げた彼の表情は決意に満ち溢れていた。僕がクロくんに会った時と全く同じ、僕を救ってくれたあの時の彼そのものだった。
「せっかく炎上も丸く収まったのに。どうしてそんなこと。」
意味のない問いかけが口からあふれる。こんなことを聞いても無意味で、彼を止めることができないことは僕が一番分かっていた。
「俺はこういう人を助けるためにゲーム実況を始めたんだ。俺はもう、繰り返すわけにはいかないんだよ。」
そんなの自己満足だよ。いつもなら躊躇せずに発することができるはずのその言葉がどうしても出てこなかった。
「あれはクロくんの所為じゃないよ。」
意味のない言葉ばかりを紡ぐ自分の口を縫いたくなる。
彼は無言で微笑んだ。
「同じなんだよ。こいつは、あいつと。」
それだけ言うと彼はまたうつむいてしまった。
自分の無力感をごまかすように、僕は再び心地の良い雑音に身を委ねた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます