第8話 Cecil

僕と陽菜さんは学校を後にして、桃恵先生に書いて貰った地図の家に向かって歩き出した。


家に行くには電車と言う乗り物に乗らないといけないらしく、僕達は駅と言う場所まで歩く事にした。

駅に着くまでの間にお互いの世界の事を話しながら歩いた。

陽菜さんは翔さんの事をとても幸せそうに話すので、僕までもが翔さんに会ってみたいと思う様になっていた。


陽菜さんの話の中で、僕が一番驚いたのは、この世界では魔物やモンスターは存在しておらず、人々は皆平和に暮らしていると言う事だった。


僕は初めて電車に乗り、この世界の化学技術に驚かされた。


僕と陽菜さんは"見門みかど駅"で電車を降り、駅の周りを歩いていると何やら歌が聞こえて来た。


「セシルくん今ストリートミュージシャンの歌が気になってるでしょ~

少し聴いて行こっかぁ〜」

ストリートミュージシャンはマイクを片手に誰に歌うでもなく遠い空に向かって歌っている様であった。



"故郷ふるさとに~生きる~仲間であり~大事な~友達がずっと~平和に~笑顔で~頑張っていると~

明日は~楽しいんだ~英雄なんて~・・・"



僕はこの歌を聴いていると不思議と涙が出て来た。


アリシアとイワンを危険な場所へ残してしまった事への後悔。

僕達の住む世界もこの世界の様に平和になったなら、どんなに素晴らしい事か。

毎日魔物やモンスターに怯えて過ごす生活なんて人間らしいと言えるのか。

人々が皆、笑顔で過ごせる世界を取り戻す為に僕達はずっと戦って来た。

いつか平和な世が訪れたなら、僕みたいな勇者と持て囃される英雄なんてものは必要無いと、そう思った。



歌を歌い終えて、ストリートミュージシャンが僕に話し掛けてくれた。


「俺の歌で足を止めてくれたのも、こんなに感動してくれたのも君が初めてだよ。ありがとう。」

「この歌の詞は、あなたが考えたんですか?」

「ああそうだよ。でも不思議なんだ、夢の中でこの歌詞が浮かんで、一言一句、起きた時にもはっきり憶えていたんだ。」

「そうなんですね。何だかこの歌詞に勇気を貰いました。」

「そう言って貰えると嬉しいよ。大体いつもここで歌ってるから気が向いたらまた聞きにきてくれ。」

「ありがとう御座います。」


ストリートミュージシャンと別れた後もずっと僕の涙は止まらなかった。

それを横で心配そうな顔で見ていた陽菜さんは、そっと僕にハンカチを渡してくれた。



言葉は交わさずとも、陽菜さんは僕の心を優しく包んでくれている。そんな気がした。



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