第6話 Cecil
僕は突然変わった周りの風景に茫然となり、振り上げていた剣をそっと下ろした。
さっきまで魔王の城に居た筈なのに、急に沢山の机や椅子が規則正しく並ぶ、見た事も無い不思議な建造物の中に佇んでいた。
そして、目の前に居た筈の魔王は僕と同じ年齢位の若い女の子に変わり、アリシアとイワンの姿も何処にも見当たらなかった。
僕の目の前に立つ女の子は閉じていた目をそっと開けた。
彼女は首を大きく動かして、誰かを探している様に見えた。
「翔は何処?さっきまで目の前に居たのに何処に行ったの?」
彼女は激しく動揺している事が見て取れた。
「あなたは誰なの?いつの間に私の前に現れたの?」
彼女の問いに僕は何一つ答える事が出来なかった。
何よりも僕自身がこの状況を呑み込めていなかったからだ。
「僕からも聞きたい事があります、魔王は何処に逃げたんですか?早く追わないと、この世界が大変な事になります。そうだ、あなたもここから早く逃げて下さい。」
「まおう何て人知りませんし、私はここから逃げません!それよりも翔を返して!」
彼女の目線が不意に僕の手元に移った。
それと同時に彼女は大きな叫び声を上げた。
「まさか翔を殺したの!?その手に持っている物から滴り落ちているのは・・・血なの・・・?」
「これは、父さんの形見でブレイブソードと言います。古代人達が悪しき魔物を倒すために100年以上太陽の光を当てて・・・」
「そんな剣の由来なんかどうでもいいんです!」
「兎に角落ち着いて話を聞いて下さい・・・」
僕は彼女に魔王軍との戦いの話、突然知らない場所に立っていた事を説明した。
彼女も落ち着きを取り戻して、僕に自分と翔さんの事を話してくれた。
「つまり・・・あなたは気が付くと全く知らない、私達のこの世界に来てたって事なんだぁ~。」
「そうです、どうやら僕だけがここに来てしまった様なので、仲間達が心配なんです。」
僕は陽菜さんが言った"この世界"という言葉に不思議な感覚を覚えていた。
魔王に止めを刺そうと剣を振り上げた時に彼が最後に呟いたその言葉が何故かずっと頭の奥に引っ掛かっていたからだ。
こうして今、僕自身が別世界に飛ばされた事と何か関係があるのだろうか?
今考えてもその答えは出ないと思い、考えるのを止めた。
「私閃いたかも~!もしかして、あなたと翔がお互いの世界を飛び越えて入れ替わってしまったって事なんじゃないかしら?」
「すみません。それは僕にも分からないんです。」
「うん!いいわ!あなたを元の世界に戻す事が出来たら、翔も帰って来るかもしれない。私もあなたに協力してあげる。
だから絶対に元の世界に帰れる方法はあるんだって信じて希望を捨てないでね。決して落ち込んだりしちゃダメだよ~。
自己紹介が遅れたけど私の名前は陽菜って言います。よろしくね。え~っと・・・」
「僕の名前はセシルです。よろしくお願いします陽菜さん。」
「よろしくセシルくん。」
陽菜さんは、大切な人が突然居なくなりとても辛い筈なのに、見知らぬ世界で独りぼっちで、不安で一杯の僕に対して優しく微笑んでくれた。
僕は爺ちゃんから両親の二の舞にならない様に、特に初対面の人は必ず疑って掛かるようにと教えられて育った。
だけど陽菜さんの優しい笑顔を見ていると彼女だけはこの世界でどんな事があっても無条件に信頼出来る。そう思った。
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