第5話 安里翔

陽菜も俺と同じ気持ちだったと知って、今俺の心は最高に満たされていた。


こうやって陽菜と唇を重ね合わせていると、今までに感じた事の無い幸福感を得られ、俺以上に幸せな人間なんて、どこを探しても居ないのではないかとさえ思えた。

順番は逆になってしまったが、帰りは自然な流れに持って行って、二人で手を繋いで帰ろうと考えていた。


陽菜の唇はとても柔らかく、まるでプリンの様だった。


しかし、そっと触れていた肩はどうだろうか?


ゴツゴツして角張った岩の様な感触が手の平を伝わっていた。


俺はそっと目を開けた・・・


「ギャーーーー!!!」


目の前に居たのは最愛の陽菜では無く、静かに目を閉じて血の涙を流している、白髪の恐ろしい顔の老人であった。

俺は恐怖の余り思わず叫び声を上げてしまった。

老人は俺の叫び声に驚き、パッと目を開けるや否や、俺のみぞおちを思い切り蹴り上げた。

俺はその衝撃で後ろに吹っ飛び、暫くの間、痛さで呼吸が出来なかった。


数秒後、痛みが治まり、辺りを見回すと、そこはさっきまで陽菜と居た幸せな放課後の教室ではなく、殺伐とした不気味な薄暗い城の中であった。

周りに居る奴等全員が血まみれの虫の息で今にも死にそうな重傷者ばかりだった。


「おーい陽菜ー!どこだー!」


俺が必死に陽菜の名前を叫んでいると、それを邪魔するヤツが現れた。


「あなた、セシルを何処にやったの?早くセシルを返して!」


破廉恥な魔法使いのコスプレをした女が急に俺に近寄って来て耳元で大声で喚いていたが、俺にはそんな事に構っている暇は無かった。

陽菜を探さなければいけなかったので徹底的に、このヒステリックな破廉恥コスプレ女を無視してやった。


「アリシアこんなヤツ放っておけ!セシルが居なくなってしまっては俺達に勝ち目は無い!兎に角、魔王の体力が回復する前にここから脱出するのが先決だ!」

モヒカン頭で上半身裸の斧を持ったおっさんが何やら焦った様子で叫んでいた。


俺はこの二人か、怖い顔の爺さんのどちらに付いて行くべきか考えた結果・・・

と言うより、考えるまでも無く、DNAに刻み込まれた生存本能から怖い顔じゃない方の二人に付いて行く事を決意した。


万が一、斧を持った男に何かされたらと考えると丸腰では不安だったので、偶然床に落ちていた手裏剣の様な武器を拾い上げ、手に握り締めた。


「イワン!ワープするから早く私の手を取って!」

イワンと呼ばれている男は必死に破廉恥な女の元に急ぎ、右手を取った。


どさくさに紛れて俺は破廉恥な女の左手を取った。




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