第4話 Cecil

僕は目の前の最大の敵である魔王を追い詰めて対峙していた。


魔王の長い銀髪は振り乱れ、赤い目からは赤い血が流れ落ちていた。

身に着けている甲冑はボロボロに剥がれ落ち、魔王の足元は真っ赤な血の湖になっていた。


「フフフ、私をここまで追い詰めたのは君が初めてだ。

この世界から魔王である私が消えたら、どの様な弊害がもたらされるか君は考えた事があるかい。」


「何があろうと、今ここであなたを倒さなければ、これまでに散って行った人達に顔向けが出来ない。

それに、これ以上人類に害をなす、あなた方をこのまま放置する訳にはいかない。」


僕は戦いの最中は必死で全く気付かなかったが、こうして冷静になって魔王と話をしている時にある事に気付いた。


"魔王の血が僕達と同じ赤い色をしている"


僕はこれまでに多くの魔物と戦って来たが、その血は必ず緑色であった。


これには一つの例外も無かった。


そして僕の頭の中で、こんな時にそんな事は決して考えてはいけないと言う様な、あるとんでもない仮説が浮かんだ。


"魔王が魔物を従えているのでは無い。両者に協力関係は無くそれぞれ独立した存在では無いのか?"


この仮説を頭から消そうとすればする程、疑念は深まるばかりだった。


"魔王と魔物が同時に現れる事はあったが、それは単る偶然だったのでは無いのか?"


"本能だけで動き、知能があるとは言えない魔物に特定の指示を与える事は不可能では無いのか?"


"そもそも魔物と対となっている様な、魔王と言う呼称は誰が付けたのか?"


このまま僕自身が自ら生み出した疑念の深みに嵌れば、魔王を倒す事への正当性を欠いてしまう。

そう思い僕は、考える事を止め、ゆっくりと魔王の間合いに入った。


魔王には最早、剣を握る力すら残って無く、自らの死を受け入れたかの様に静かに目を閉じた。


「この世界・・・」


剣を振り上げた瞬間、魔王がそう囁くのが聞こえた。




次の瞬間、セシルは眩い光に包まれ、この世界から姿を消した。

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