第3話 Cecil
「長きに渡るあなた方魔王軍との戦いも、今日で終わりです。」
魔王が住む城に辿り着いた時には既に僕達三人は満身創痍だった。
魔法使いのアリシアは後方支援を担当し、長時間の戦いでMPは殆ど残っていなかった。
大斧を装備するイワンは僕と共に最前線に立ち、絶えず動き回り戦闘のサポートしてくれていたので、足元はかなりふらついていた。
僕は人類対魔王軍との戦いの、希望の象徴である勇者として、絶対にこの最終決戦に負ける訳にはいかなかった。
そして、自らの命を犠牲にし、僕達にこの城までの道を作ってくれた人達の為にも・・・
僕の両親は僕がまだ幼い頃に、魔王討伐の為、幼い僕を故郷に残して旅立って行った。
父さんは勇者として正義感が強く、常に真っ直ぐな人だった。
母さんは最高位の魔法使いで、誰にでも優しく、いつも戦いで負傷した人達の治療をしていた。
300年以上続く魔王軍との戦いを終結させる事が出来るのは歴代最強であった父さん達のパーティーしかいないと言われていた。
しかし、この最強のパーティーは旅立って直ぐに全滅する事となった。
仲間の一人が裏切り、人を信じて疑う事を知らない父さんと母さんが背後から切られたのだ。
父さんと母さんはこれまで多くの町を救った功績から英雄として埋葬された。
僕はそんな称号よりも二人にはずっとずっと長く生きていて欲しかった。
そして僕は、父さんの父親である爺ちゃんの元に引き取られる事となった。
「セシル!お前はあの死んだ二人みたいに、魔王に刃を向けないまま呆気なく犬死にする様な馬鹿な真似はするなよ!
二人の二の舞にならない様に俺がしっかり鍛えて一人前の勇者に育ててやるから覚悟しろ!」
僕は父さんと母さんの事を侮辱する爺ちゃんが大嫌いだった。
剣の稽古の時は本気で爺ちゃんに傷を負わせようと死に物狂いで剣を振った。
だけど、その剣は爺ちゃんには一度も掠りもしなかった。
僕の剣が爺ちゃんに初めて触れたのは修行を始めて5年後の事だった。
「セシル。お前も随分と強くなったな。後は実践で経験を積む事だ。」
「爺ちゃんから褒められるなんて初めてだよ。」
普段は無口で必要最低限の会話しかしない爺ちゃんからそんな言葉が出るとは思ってもみなかった。
「そうじゃったかのう。まあ今日は日も暮れて来たし、家に戻るか。」
僕と爺ちゃんは二人並んで家に向かって歩き出した。
暫く歩いていると爺ちゃんの歩くスピードが徐々に落ちている事に気付いた。
「年には勝てんな。セシル!先に帰って家で待っておれ。」
「うん、分かった。」
そう言って僕は再び歩き始めた。
すると背後から徒ならぬ殺気を感じ、考えるよりも先に鞘から刀を抜き、僕は振り向き様にカウンターの一撃を放った。
「どうして爺ちゃんが・・・」
そこには僕の一撃によって倒れ、呼吸をするのさえ苦しそうな爺ちゃんの姿があった。
爺ちゃんは息も絶え絶えに僕に大事な事を伝えようとしてくれていた。
「ふふふ、お前の剣の技術は既に父親を超えておる。儂の心残りは、あいつ・・・お前の父親に、時には人を疑う事も大事だと教えられなかった事。
そして、怒りの感情をコントロールする事で普段以上の力を出せるという事じゃった。
お前はこの二つを見事に克服した。
今まで、父親と母親の事を悪く言ってすまんかったな。
儂はもう十分生きた。最後にお前が世界を救う姿をこの目で見たかった・・・」
「爺ちゃん!死なないでくれ!こんな別れ方嫌だよ!」
僕は泣きながら、必死に爺ちゃんの耳に届く様に叫び続けた。
この日、僕の剣の師匠でもある爺ちゃんは静かに目を閉じた・・・
そして永遠の深い眠りについたかの様に思われたが、穏やかな寝息を立て、浅い眠りについただけであった。
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