第2話 安里翔
俺は意を決して陽菜が座る机の前に向かって歩いた。
「どうしたの安里くん?」
こうやって正面から陽菜の目を見るのは随分と久し振りであり、これから起こるかもしれない最悪の結末を考えると何だか怖くなった。
陽菜が両肘を机に乗せて手の平を両頬に当て、不思議そうな目で下から俺を覗き込んだ。
「何から話していいか・・・」
昔はあんなに自然に会話が出来ていたのにあの一件があってから、俺は陽菜に対して自然な会話というのが出来なくなっていた。
「ごめん・・・」
「急に謝ったりしてどうしたの?私が怒る様な事、何かしたんだ~。う~ん。何かな~・・・」
陽菜は斜め上を見ながら考えを巡らせていたが、何も思い当たる事が無い様子であった。
「降参~。多分怒らないと思うから教えて。安里くんとこんなにお喋りするの久し振りだから、正直に話してくれたら、今なら何でも許しちゃうかも~」
陽菜は明るく話していたが、目の奥はどこか怯えている様に見えた。
「入学式の日、俺は相・・・陽菜に酷い事を言ってしまった。あれは本心じゃなかったんだ!
ずっと謝ろうと思っていたのに中々切っ掛けが掴めずこんなに時間だ経ってしまった。
中三の頃に二人で花火を見に行ったの憶えてるか?あの時から今でもずっと俺は陽菜の事が好きなんだ!
あんなに酷い事を言ったのに自分勝手だって言うのは分かってる。
でも、この気持ちを伝えられないまま高校を卒業して、陽菜に会えなくなると考えたら・・・一生後悔すると思ったんだ。」
“ガタン“
陽菜が急に立ち上がった。
「私もずっと翔の事が好きだった・・・入学式の日。私、てっきり翔から嫌われてたんだって、そう思ってた・・・」
陽菜は目に涙を浮かべていた。
その涙を見ていると、たまらなく愛おしく思えた。
この時、もう二度と陽菜を悲しませる様な事はしないと、そう誓った。
俺は陽菜の涙を拭い、そっと抱き締めた。
後ろの方で黒板消しが床に落ちる様な音がしたが、この幸せな一時をそんな些細な事に邪魔されたく無かったので二人共無視をした。
俺は陽菜の両肩にそっと優しく手を置いて、目を閉じ、唇を重ねた。
次の瞬間、安里翔は眩い光に包まれ、この世界から姿を消した。
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