ANOTHER WORLD STORIES

佳樹

第1話 安里翔

俺の心臓は緊張の余り、今にも飛び出しそうになっていた。


放課後の教室に残ってるのは俺と、斜め後ろの窓際の席に座る幼馴染の陽菜だけだった。

俺が陽菜に長年の思いを伝える決心をしたのはこれが初めてだった。

もし告白して振られたら、これまでの友達関係さえも壊れてしまいそうな気がして、その恐怖から高3になる今まで、胸に秘めた思いをずっと伝えられずにいた。

陽菜は誰に対しても優しく、クラスで一番美人であるにも拘らず、浮いた話は今まで一度も無かった。

しかし、転校生のアイツが現れてから俺は毎日生きた心地がしなくなった。

アイツはどんなに無視されようが、歯の浮くようなセリフで陽菜を積極的に口説いていたからだ。

あれだけ積極的にアプローチされたら、いくら最初は相手にして無くても心変わりするかもしれない。

そうなってからでは遅いと思い俺は放課後に陽菜と二人きりになるタイミングをずっと探していて、やっとそのチャンスが訪れた。


陽菜は文庫本を読んでいたが、その手を止めて急に俺に話し掛けて来た。

「#安里__あんり__#君が放課後も教室に残ってるなんて珍しいね。ましてや教科書広げて勉強なんかしちゃって。

さっきからずっと見てたけど、全然ページを#捲__めく__#らないね。もし分からない所があれば私に分かる範囲であれば教えてあげようか?」

まさか陽菜がずっと俺の方を見ていたなんて思わなかった。

教科書を開いていたのは、放課後教室に残る理由が欲しかっただけで、教科書の内容など何一つ頭に入っていなかった。


陽菜が俺の事を少しでも気にしてくれていた事が何だか嬉しかった。


高校に入学して直ぐの時に、俺は陽菜に酷い事を言ってしまった。

その時の事を思い出すと、今でも胸が苦しくなる。

一度言ってしまった言葉を無かった事に出来るならどんなに楽だろうか。


それは高校の入学式が行われる日で、クラスの初顔合わせの時だった。


「良かった翔も同じクラスで。周りは知らない人達ばかりでどうしようかと思ってたんだ。どう?私の制服姿似合ってる?」

陽菜が両手で俺の腕を握りながらいつも通りの笑顔で言った。

「お前達、入学初日からお熱い夫婦だな。」

「うん。いいでしょ~。ねぇ、翔。私達周りから見たら夫婦なんだって~」

陽菜は笑いながら冗談っぽく言った。

「陽菜!誤解されるから、これからは下の名前で呼ぶのは止めろよ。それからベタベタ引っ付くのも止めろ。」

俺は入学初日から他の奴等にナメられるのが嫌で、陽菜に強く当たってしまった。


「うん。ごめんね。翔・・・じゃなかった、安里くん。」

この時の陽菜の寂しそうな顔が今もずっと忘れられられない。


言ってしまって直ぐに俺は激しく後悔したが、その時はもう遅かった。


その日から陽菜は、どこかよそよそしくなり、俺を翔と呼ぶ事は無くなり、苗字で安里くんと呼ぶ様になった。

俺も陽菜の事は苗字で相川さんと呼ぶ様になり、この時からお互いに深い溝が生まれた様に感じた。



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