女神さま。「ママ活」に 沼る⑩

『 ターニングポイント 』


人生の分岐点は、通過しないと分からない――


誰だったろうか?

神様に愛されていれば、「死に戻りができるんだってさ」


なんて、言っていたのは――


それが本当であれば、

あの有名な戦国武将 / 織田信長は、

間違いなく『本能寺の変』でお亡くなり、なんて事なかっただろう――



――つまり……? やっちまったぁあああ!!!



婦警さん達に、両脇を抱えられてパトカーに押し込められようとしている、この状況


「いや、待ってくれ! 俺は、まだ何もしてないぞッ!」


「お巡りさんは見てましたよ。いま、痴漢したでしょ?」

「してねぇよッ! 半径5m以内に誰もいなかったろ?!」


「「えっ!?」」


「そういえば、そうでしたね。先輩」

「そうね。思わず任意同行をしようとしたけど、どうしてかしら?」


などと、“チラチラ”と俺を見ながら、話し合う2人


「おい、これは不当逮捕だよな」

と、精一杯にお巡りさんを見下しながら訴える


「コホン。失礼いたしました。

 では、先ずは身分を証明出来るものをお持ちでしょうか?」



 ― 10:05 パトカー前 ―



「おいぃいいッ!! なんで、そんなもんを証明しなきゃいけないんだよー」


「え? あ。ごめんなさい……」

「はい、浅倉。犯人になめられたら、おしまいよ」

「すみません。先輩…」


(いやいやいやいや。なにこれ? 犯人って誰の事だよ?)


「失礼ですが、そのTシャツは何処で手に入れたものですか?」



俺は、思わず自分のTシャツを引っ張り、プリントされた絵をみた



「これが、どうしたんですか?

 まさか、これと同じモノを着た痴漢が現れたとか?」


「いえ。そんな目立つTシャツを着て痴漢だなんて、ありえないですよ」



――おいぃいいッ!! さっきの冤罪をサラっと流してんじゃねぇよッ!!



「浅倉。ちょっと黙ってて」

「すみません。先輩…」


「先日、東京国立博物館から『オーパーツ』という物が何者かに盗まれた事は、

 ご存知でしょうか?」

「いえ、ぜんぜん」


「そうですか。では、先ほどは何をされておられましたか?」


「え、っと…『括目せよ』と言って、空にこう指を…」―レベルが上がりました―

「浅倉ッ! 緊急逮捕よ」


「「え?」」 浅倉と呼ばれる婦警さんと、思わず声がハモる


「どういうことですか? 先輩」

「危険よ! いま私、この人にお尻をさわられたわッ!」


「「え~」」 


「先輩、ちょっと待ってください… おち、落ち着いてくださいっ?!」


「今、ここで逮捕しなければ、私の経歴が汚れるのよ。

 こうなったら、やるしかないのよ。お願い、浅倉。…出世の為よッ!」


「っと。この人は、いったい何を言っているのだろうか?」

と、思わず婦警の浅倉さんに訊ねてみる


「すみません。昨日の合コンで上手くいかず、機嫌が悪いんだと思います…」


「はぁ~? …………おま、ふざけんなよ!?」


「ご職業は?」

「へっ? あ、主夫です」 突然の質問に思わず答えてしまった


「はい?」

「いや、ですから、女神さまの家で『専業主夫』をやってます」


「浅倉ッ! 逮捕よ、逮捕よ。

 ここまで犯人にナめられたら、警察は、おしまいよッ!」

などと、泣きそうなかおで激高されてしまった


「せ、先輩、落ち着いてください

 『結婚が、人生最高の幸せ』だ、なんて部長のセクハラは、忘れてください~」


(いや、本当に。この人たちに いったい何があったのだろうか?)


「なんなのよ、女神さまだなんて! 私への当てつけのつもりッ?!」

「先輩! 相手はまだ一般人ですよ」



まだ、ってところが、非常に気になるんだが……

そして。待ち合わせの時間が、どんどん過ぎて行くんだが……



「先輩、それは、触っちゃダメですって!

 こんなところで、抜かないでください~」


「お願い、浅倉。1ッ発でいいの!

 せめて、1発くらい。ここでやらせて、浅倉!」


「あぁ。先輩の黒くてかたいモノが腰に、あたってる~

 ……でも、絶対に抜かせませんよ!


 発泡も威嚇射撃も許可されませんから~」


浅倉さんが半べそで、先輩風の人を抑え込むように絡み合っている


――頑張れ。都内の治安は君の手に掛かっているッ!


 ◇


婦警さんが婦警さんを取り押さえる現場なんて、滅多にお目にかかる事ではない


そんな事を思いながら、2人のやり取りを眺めていると、美羽さんが遠くから手招きをしてくれていた


スバル、いまよ。

 2人が恥辱で、もつれ合ってくれている好きに脱出よ」


……と、言っているに違いない

遠すぎて、何を言っているのか聞き取れないからな


まぁ、彼女の性格だから、だいたい合っているだろう――


俺は美羽さんの指示に従って、頭のおかしな婦警さんから逃げ出すのであった



つづく



※『括目かつもくせよッ!』…声を聞いた者は、内在している不満を吐き出すスキル

 特に、普段からストレスを溜め込んでいる人には 効果が大きい

 また、スキルLevelが上昇すると、扇動せんどうの効果を得る

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