女神さま。「ママ活」に 沼る⑦


『トゥエルブ・センス』という高級ブランドメーカー

僕は、そのブランド品の革靴かわぐつに足を滑り込ませる


そんな僕を玄関先で、ジッ と見つめる女神さま

彼女は、滅多なことでは人の服装を褒めないし、笑わない


彼女の1歩引いた姿勢や気遣いに、僕はどれほど救われただろうか?


その優しさに、僕は心の底から叫びたいんだ…



――好きだぁあああッ!!!



「ねぇ、スバル。これから、買い物に付き合ってもらえないかしら?」


「え? どうしたの? 急に…」


「待ち合わせまでは少し時間もあることだから、いつも家事をやってくれてる昴に

 感謝を込めて、プレゼントを贈りたいのよ」


彼女は少しだけ、はにかんだような微笑みを、僕に向けてくれる


「そう言ってもらえると、凄く嬉しいよ」と、素直に彼女へ気持ちを伝えた



 ― 09:10 玄関先 ―



扉の向こう側は、日差しが照り付けてくる。なんて暑いんだろう

まるで、異世界に 一歩 踏み出した気がする

あっ。いま掛けている眼鏡だと、陽が反射して眩しいや

もう、こんなに御日様おひさまが昇っているんだ


僕は本革レザーのウエストヒップバックから、度の入った色眼鏡を取り出しす


「ね、ねぇ、昴ッ!」と、慌てる美羽ミウさん


「その狼狽うろたえぶり。やっぱり、不倫しようとしてた?」

「違うわよ。そのダサいTシャツに色眼鏡は、さすがに引いちゃうっていいたいの」




「っえ ?! あ、うん…。なんか、ごめん…」




――あれ? おかしいな?



「わかればいいのよ。世界で一番すてきな、旦那さま ♡ 」

そう言うと、美羽は僕の頬に 軽く口づけをしてくれた


「よ、よしてよ。恥ずかしい」


あぁ。でも、やっぱり好きだな。こういう美羽さんは・・・



――あれ? やっぱり、おかしいや…?



思考の変化に、口調の変化に。ぼくは、本来の『僕』に戻ってしまっている


異変に気付いた僕は、腕輪に目をやる

赤から紫へ、虹と同じ配列で7色に光るバングル(留め金のない,輪になった腕輪)

中央に、『寛永通宝』のような古銭のをめ込む変わった腕輪が、切れかけた蛍光灯のような光を放っていた


美羽さんから貰った、【転生遺産】と呼ばれるアイテム

もとは、この世界に転生した『勇者』にのみ与えられる、異世界特典だという


「あ、あのさ。美羽、さん、これ…」


そう言って、僕は彼女に腕輪を見せた


「あら? 魔力切れね。あとで、魔力を補充してあげるわ♡」

「…お願い、します」



――そういえば、いつの間にか『俺』から『僕』に変わってしまってる



このアイテムを貰うまでは、気弱な性格だったんだよな


勉強は出来ても、相手に意見が言えない

引っ込み思案で、何考えてるか分からないって言われるくらい……



でも、彼女のお蔭で『僕は変われた』



――この【転生遺産】のお蔭だ――



僕は、腕輪の中にある【古銭メダル】を、そっと指で撫でる


その古銭には、異世界語で『冒険者』と書かれてある、らしい――




つづく





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