運命的な出会いとは衝撃的なもの? それはつまり破壊力ってことですわよね!

猫とホウキ

さあ、突っ込みますわよ!

 わたくしの名前は襟木えりんぎ舞子まいこ。花も羨む麗しの16歳、女子高生。名族・襟木家の長女にして、容姿端麗、スポーツ万能、成績優秀、ただしド貧乳スレンダー美少女と呼べ


 こんなわたくしも、このよわいにして、初めて恋というものを知りました。学校も違う、名前も知らない、まだ中学生臭さが残る──なんとも可愛らしい顔立ちの男の子。彼はいつも同じ時間に、いつもその交差点を、そしてわたくしの眼前を通り過ぎて学校へと向かいます。たまに、わたくしの顔を見ることもあって、そのときの無意識のような、彼の僅かな笑みが、わたくしの心臓をずきゅんばきゅんと撃ち抜くのです。


 わたくしはこのことを母様かあさまに相談しました。すると母様はこのように助言をしてくださいました。


「食パンを咥えたまま走り、曲がり角で出会い頭に衝突すると良いでしょう」

「何故、そのようになさるのですか?」

「運命的な出会いとは、そういうものだからですよ、舞子。良いですか、可能な限り衝撃的なインパクトある出会いをするのですよ」

「分かりましたわ、母様。可能な限り破壊的なインパクトある出会いをいたしますわ」


 こうして、わたくしのラブきゅん大作戦恋と破壊の方程式は始まったのでした。



*****



 わたくしの通っている高校は、自動車による通学が禁止されています。まあ、許可されていても無免許運転になるのでほとんど誰もできませんが。でもそんなルールなんて、恋路を駆ける乙女にとってはなんの制約にもなりません。


 母様の軽自動車を盗み出したわたくしは、制服姿で公道を突っ走っておりました。目的地は言うまでもありません。あの交差点です。

 彼は今朝も交差点を渡るでしょう。わたくしから見て、彼は左から右に進みます。交差点近くの歩道には、道路と反対側に三メートルほどの高さのフェンスがあり、お互い交差点の手前まで進まないと、相手の姿が見えないような位置関係になっています。


 まさに曲がり角。出会い頭の衝突には相応しい場所です。わたくしは時間を確認し、それから交差点に向けて車を発進──ハンドルを左に切り、、鉄の塊を全力で加速させます。


 口に咥えた食パンを強く噛み締めます。パンの香りが鼻腔内に広がります。彼の顔が見えました。ああ、恋のピンク色の日常ラブストーリーが始まっちゃう!


 しかし──


「それで始まるのは血の赤色の日常ラブストーリーだこのドアホ娘があああああああああ!」


 怒声が響きます。まあ、なんてことでしょう。これは母様の声です。振り向くと、わたくしの車に向かってダンプカーが高速で突っ込んできているのが見えました。


 結果、わたくしは彼とぶつかるより早く、ダンプカーに体当たりされ、車ごと交差点の向こう側まで吹き飛ばされ、そこにあったコンビニへと突入しました。ペチャンコの軽自動車から這い出したわたくしは、血塗ちまみれのまま、駆け寄ってきた店員さんに言います。


「同情など不要ですわ……。放っておいていただけますか!」

「同情はしませんが、警察呼ぶのでそこでお待ちください」



*****



 とりあえず警察の御用となりました。わたくしは当然ですが、母様も普通免許しか持っていないのにダンプカーなんてものを運転していたので、母娘仲良く無免許運転です。


 それにしても母様が妨害してくるなんてどういうことなのでしょうか。わたくしは母様の助言に従って行動しただけなのに……。

 人の恋路を邪魔するものは馬に蹴られて死ぬとか、そういうことわざがあった気がします。母様が死ぬのは嫌なので、全力で気を付けて欲しいところです。現代日本で馬と出会う機会などそうそう無いので大丈夫かと思いますが──わたくしは今、通学路を歩いておりますし、危険が無いとは言い切れません。


 というわけで、『食パンを咥えたまま走り、曲がり角で出会い頭に衝突する』作戦は続行です。自動車の無免許運転はもの凄く怒られたので、軽車両扱いのお馬さんで再チャレンジです。


 毎日見かける彼の姿──あの可愛らしい横顔を見る度、わたくしの恋心ハートは荒馬のごとく「ひひーん!」といななきます。というか、実際に少し声が漏れます。ぶひぶひ言って歩いています──これでは馬さんではなく豚さんですね。


 スマートフォンで時刻を確認します。ああ、そろそろ彼が交差点に現れる時間です。わたくしが見せ鞭合図をすると、鹿毛の愛馬は駆け足を始め、それからぐんぐんと加速していきます。


 わたくしはホルスターから食パンを抜くと、それを口に咥えました。姿勢も競馬騎手ジョッキーのようなモンキー乗りに変えます。馬はさらに加速します。メーターがないので分かりませんが、時速60〜70キロは出ているのではないでしょうか。なお走っているのは歩道ではなく道路で、車やバイクを次々に追い抜いて進んでいます。


 そして交差点。わたくしは右鞭を一閃。愛馬は進行方向を左に変えます。急カーブの向こう側、歩道には彼の姿。


 運命の出会いディープインパクト。それはもう目前にありました。


 しかし──


「そこで待っているのは人馬一体の悪夢ディープインパクトだこのドアホ娘があああああああああ!」


 怒声が響きます。まあ、なんてことでしょう。これは母様の声です。振り向くと、わたくしたちに向かってが高速で突っ込んできているのが見えました。


 結果、わたくしは彼とぶつかるより早く、象に体当たりされ、わたくしの体だけ交差点の向こう側まで吹き飛ばされ、そこにあったコンビニへと突入しました。わたくしは頭から血をだくだくと流しながら立ち上がると、駆け寄ってきた店員さんに言います。


「同情など不要ですわ……。放っておいていただけますか!」

「ええ、そうします」



*****



 またしても警察の御用となりました。捕まった理由は、母娘仲良くです。50キロ制限の道路でしたからね。


 それにしても二度目の失敗です。運命の出会いとは、なかなか難しいものです。しかしわたくしは馬鹿ではありません。この二度の失敗について、原因を分析します。


 母様が妨害してくるという前提で考えます。そして何故、わたくしは失敗したのか。


「ダンプカー、そして象。その圧倒的なパワーに敗れた」


 つまりパワーがあれば負けなかった。では次はどうすれば良いのでしょう。


「パワーで対抗する? いいえ、さらにスピードを上げて、母様に触れさせない」


 作戦は決まりました。


 そしてわたくしは音速で飛行する走るため、戦闘機のある襟木家の空軍基地に向かいました。



*****



 わたくしは戦闘機に乗り、交差点の上空を旋回しておりました。彼がこの場所を訪れたら最期、地面すれすれを飛行し、曲がり角で彼にぶつかる予定です。


 さすがに空にいれば、母様も手が出せないでしょう。そしてこの戦闘機は襟木家の最高スピードを誇る機体です。万が一、母様が別の機体で追いかけてきても、速度で負けることはありません。翻って、先に撃墜してしまうことだってできます。


 さあ、ときが迫ります。いよいよ、愛への垂直落下フォーリンラブの時間です。


 しかし──


「これから始まるのは、絶望への垂直落下フォーリンラブの時間だよこのドアホ娘があああああああああ!」


 母様からの通信。それと同時に警告音──ロックオンされた!?


 母様はどこから来たのでしょうか。レーダーに機影はありません。いや、まさか……。


「私が乗っているのは襟木家の。レーダーでは捕捉できないですよ、舞子」

「く、これでは反撃ができない」

「力の差が分かったのなら、早く諦めなさい」

「いやですわ。わたくしは今日こそ、彼と運命の出会いを果たすのです!」


 わたくしは機首を落とし、真下に進路を変えます。同時に、より喧しい警告音が鳴り、母様が空対空ミサイルを発射したと察します。その一撃は鋭く、わたくしの機体をあっさりと砕く──


「なんてこと、させるわけがないでしょう!」


 わたくしは戦闘機を捻るように横回転させ、ミサイルが突き刺さるを避けました。即座に反転、ミサイルの発射位置を特定し、そこ目掛けて戦闘機を走らせます。なお外れたミサイルは交差点にあるコンビニへと突き刺さりました。


「見えましたわ。母様、これも初恋成就なためです。悪く思わないでください!」

「ドアホ娘が! こんなやり方で成就する恋愛があったら、みんな謎の衝突事故で死んでしまうでしょう!」

「わたくしは母様の言う通りにしただけ!」


 ロックオン、ミサイル発射。


「狙いが甘い! お返しですよ!」


 避けられて、ミサイルを撃たれます。


「なんの! 母様こそ機体の性能に頼りすぎですわ! 百発撃たれても当たる気がしません!」

「黙りなさい! ええい、それならさらに間合いを詰めて!」

「接近戦で勝てるとでも? ほらほら、背後を取りましたわ」

「く……撃ちたいなら撃ちなさい。あなたのヘロヘロなミサイルなんて目と耳と鼻を塞いだままでも避けれます!」

「このくそばばあ!」

「誰がばばあですってえ……?」


 ミサイルを撃ち合う二人わたくしたち。なお、撃ったミサイルはことごとく、交差点にあるコンビニに着弾しておりました。



*****



 交差点の──廃墟のコンビニには、いつもの店員がいた。彼は、傍に立つ初老の男性──に向かって言う。


「それではお願いします」

「承知いたしました」


 そして執事は、コンビニ近くに設置されたの前まで歩くと、その操作パネルに触れる。


「では、参りますぞ」

「はい、どうぞ」


 執事は発射ボタンを押す。空にいる彼女たちに届くほどの大声で叫びながら。



「いいかげんにしろおおおお! この大馬鹿母娘おやこがああああああああああああああ!」



 そして光が母娘馬鹿を貫く──





<終わり>

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運命的な出会いとは衝撃的なもの? それはつまり破壊力ってことですわよね! 猫とホウキ @tsu9neko

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