結婚まで秒読み
「……パワフルなお母さんでしたね」
「でしょう? おっぱいだけ大きくて背はちんまいのに!」
ベッドの上で円華さんが荒ぶっていた。
あの後、真冬さんは名残惜しそうにしながらも帰って行った。一緒にお風呂に入ろうだとか、夜は一緒に寝ようとかそれはもう距離の詰め方がバグっていた。円華さんが傍に居るというのに漂う色香にクラッとしそうになった。
そんな真冬さんに何とか耐え、あの人が帰るまで俺は頑張れたのである。
「……円華さんが傍に居なかったらヤバかったかも」
「まあ気持ちは分かるわ。お父さんもお母さんにはデレデレだし、出会った頃からあんな風に迫って落としたって聞いたもの」
「なるほど……確かに真冬さんは円華さんのお母さんです」
でもあの姿の真冬さんに対して落としたって言葉を使うと何かやらしく聞こえてきてしまう。でも真冬さんとの出会いは決して悪くはなくて、むしろ円華さんの家族だからこそ知れて良かった。
「円華さんのお母さんは素敵な人でした。円華さんが素敵な人だから当然ですけど」
「もう千夏君ったら好き!」
トンと胸を手で押され、俺はそのままベッドに横になった。俺の股の上に円華さんが跨り、そのまま体を上から押し付けるように体重を掛けてきた。
「あぁ好き……好きよぉ千夏君」
「俺もです……俺も大好きです」
俺は円華さんの背中に腕を回した。
体重を掛けられているはずなのに重たいと感じない……いや、実際には少し重たいくらいだけど、この重みは幸せの重みだと思えば全然軽いとさえ思える。
「……なんだか、今でも夢なんじゃないかって思うことがあるんですよね」
「え?」
「こんな風に何気ない日常を円華さんと過ごして、こんな風に引っ付いて幸せを感じれば感じるほど……長い夢を見ている気がして」
「ふふ、なるほどね。私もそう感じることはあるわねぇ」
どうやら円華さんも同じみたいだ。
まあそうは言っても今が現実だということは分かっている……分かっているけどもしも夢だったら、なんてことを気が抜けた時に考えてしまう。
今見つめ合う円華さんは本物だ。頬に手を当てれば感じる肌の感触も全て本物で夢じゃない、でももしもこれを失ったらと思うと本当に怖い。
「千夏君」
「はい?」
声に出さず、一人そう考えていると円華さんは俺を見つめてこう口にした。
「私はもう千夏君が居ないとダメだわ。千夏君も私が居ないとダメ、それは間違いないでしょ? それなら何が何でも一緒に居ないとね。これから先、ずっとずっと私たちはお互いを縛り付け、お互いを求めて生きていくの♪」
「……ですね」
オーバーだな、なんてことは言わない。
俺もそれに似たような考えを持っている。俺は絶対にこの人を手放さない、離れたいと言っても離してたまるものか。
「円華さんを俺から絶対に離れられないようにする……絶対だ」
……ちょっと引かれるかもしれないけど、これくらいの気概は必要だろう。ただ小声で呟いたはずが、どうも円華さんには聞こえていたらしい。目を潤ませ、頬を紅潮させた円華さんは腰をフリフリと揺らしながらと俺のお腹に押し当ててくる。
「うん、私は千夏君から離れられない……千夏君は私のご主人様、どうかずっと私を傍に置いていて。ずっとご奉仕するから、千夏君のことを愛し続けるから」
チュッチュッとリップ音を響かせて俺の顔にキスの雨を降らしてくる。
……ご主人様か、俺はそんな関係は求めていない。でも安心してくれ円華さん、俺はずっと円華さんに傍に居てもらうから。
それからしばらくキスを交わし、俺は思い切って円華さんにこんなことを言ってみた。言いづらそうにする俺の言葉を円華さんはジッと待っていてくれた。
「円華さん……その」
「なあに?」
「……いいですか? してもらっても」
「うん♪」
とある部分を見つめてそう言った俺に円華さんは満面の笑みで頷いた。もう夕飯も全て済ませて寝るだけ、けれどもまだまだ俺と円華さんの夜は終わらない。
さて、大切な恋人と情熱的な夜を過ごすのは悪いことではなくむしろ大切なことの一つだろう。だがいつもより燃え上がってしまったことで、俺も円華さんもお互いに深く寝入ったみたいだ。
朝目を覚ました時、いつもよりかなり遅い時間だった。
「……ふみゅぅ」
「……起きれるわけねえよな」
俺は完全に脳は覚醒しているのだが、円華さんはまだ少し寝ぼけているみたい。猫になった気分で俺に甘えるように、着崩れたパジャマから覗く胸を隠さずにスリスリと体を押し付けている。
「円華さんが猫みたいだ」
「猫~? にゃ~ん♪」
ペロッと頬を舐められた。
そのまま唇にまで移動し、上唇と下唇をペロペロと舐めまわして最終的に舌を入れてきた。まあ、この段階で既に円華さんの意識が覚醒していることは嫌でも分かることだ。
「……ぷはぁ♪ おはよう千夏君」
「おはようございます円華さん」
情熱的なキスで俺たちの朝は始まった。
遅く起きても大丈夫なように今日は休日だ。なので、俺は円華さんに飛び掛かったるのだった!
「円華さん!」
「え? 千夏君!?」
上体を起こしていた円華さんをそのまま押し倒して甘えまくる。さっき円華さんが俺にしてきたのだからどっちもどっちってやつだ。円華さんの胸元に顔を埋め、顔を揺らすと俺の動きに合わせて大きな膨らみも波を打つように形を変える。
「ふふ、さっきのキスをした後に言うのもどうかと思うけど……いいわねやっぱりこんなに情熱的な目覚めは」
「ふぁい」
「もう胸に顔を埋めて喋るとくすぐったいわよ♪」
円華さんの声は嬉しそうだったので、つまりそれはもっと好きにしていいという許可に他ならない。この柔らかさと温もり、そして香りの前にはどんなことも些細に思えてしまう。何かをするよりも円華さんに甘えることの方が俺にとって大事なのだ。
「……よし、円華さん成分充電完了しました」
「え……もうなの?」
「……………」
完全にやり切った様子で俺はそう言って円華さんから離れたのだが……円華さんは全然物足りないと言わんばかりの顔をしている。起き上がった俺をジッと見つめる円華さんは動かない……俺は屈した。無言のもう少し甘えてほしい攻撃の前には成す術なんて始めからありはしないのだ。
「……またお邪魔します」
「いらっしゃ~い♪」
くぅ……全国の高校生の中でこれほどの幸せな休日を過ごしているのは俺以外に果たして居るのだろうか……まあ意外と多く居そうだけど。
「円華さんのバストとこのもこもこパジャマのコンボはえぐいですって」
「質感気持ち良いからねこのパジャマ。でもそっか、千夏君がそう言ってくれるなら嬉しい限りね。でも布の上からだけでいいの?」
「朝なので!」
「……むぅ、仕方ないわね」
だってその布の下に直接触れ出したら絶対お互いに止まれないことは分かっているから踏み止まった。さて、昨日は円華さんのお母さんである真冬さんとの出会いがあった。真冬さんは俺の母さんともいずれ話をしたいと言っていたし、母さんにも電話で伝えるとぜひ会いたいと言っていた。
お互いの家族が仲良くしてくれる、それは息子の俺としても凄く嬉しいことだ。
「お父さんはともかく、もう家族公認みたいなものね。千夏君、これはもう結婚まで秒読みってやつじゃないかしら」
「……結婚かぁ」
結婚……円華さんと結婚……円華さんが俺の奥さんかぁ……いいなぁ。
「良いですね!」
「そうよね!」
ま、俺もこれからもっと成長していかないといけない。
円華さんの隣で、彼女を笑顔で居させてあげられるような人間に成長すること、それが俺の課題だな。
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