円華さんの進化系
ピンポンと、インターホンが鳴った。
「っ!?」
「ふふ、あまり緊張しないの。それじゃあ出てくるわね」
ポンポンと俺の頭を撫でた円華さんが立ち上がって玄関に向かった。
今のインターホンは当然来客を示すものだが……そう、今日はついに円華さんのお母さんが訪れる日なのだ。果たしてどんな人なのか、俺はとにかく緊張しており心臓がバクバクと鼓動している。
「久しぶりねお母さん」
「えぇ、久しぶり円華」
……とても優しそうな声が聞こえてきた。
しばらくして円華さんに続くように一人の小柄な女性が現れた。円華さんの背は俺より少し低い程度だが、その女性は円華さんよりも更に小さかった。しかし、背は確かに低いが一部分……そう、その胸元は円華さんを彷彿とさせる膨らみがあった。
「……はっ」
つい見てしまったが、どうやらその女性には気付かれていないようで安心した。円華さんにはバッチリ気付かれていたが後で謝っておくことにしよう。リビングに居た俺を見たその人はクスッと笑みを浮かべて口を開いた。
「初めまして、あなたが本田千夏君なのね。私は佐伯
真冬さん、そう名乗った女性は深く頭を下げた。
俺はすぐに立ち上がり、同じように頭を下げるのだった。
「は、初めまして! えっと、円華さんとお付き合いをさせていただいています本田千夏です! よろしくお願いします!」
……ちょっと緊張しすぎているかな。
顔を上げると、真冬さんは目を丸くして俺を見つめていた。どうしたのかと想っていると、ボソッと呟くのだった。
「なるほどね。円華が言ったように可愛い子じゃない」
「でしょう? お母さんならそう言うと思ったわ♪」
「……あの」
戸惑う俺の隣に来た円華さんがギュッと抱きしめてきた。そのままソファに座ることになり、正面に真冬さんも腰を下ろすのだった。その大きな胸はともかく、背丈が小さいので円華さんの妹にしか見えない不思議な感覚だ。
「……ふふ、本当に仲が良いのね。こうして実際に会って分かったけど千夏君……名前で良いかしら?」
「あ、はいぜひ!」
「ありがとう。私も気軽に名前で呼んでもらえると嬉しいわ」
「分かりました」
……ファーストコンタクトとしては成功と見ていいのかな?
少しホッとしたように俺は息を吐いたが、相変わらず円華さんは俺に抱き着いたままで離れない。真冬さんの前でも変わらずの様子に安心していいのか、恥ずかしさに悶えればいいのかちょっと分からないところだ。
「電話でも千夏君のことはよく聞いていたわ。円華は本当にあなたのことが大好きってことが伝わってくるのよ。優しそうな子で良かった……ねえ円華」
「ダメよ」
「……けちぃ!」
「……?」
えっと、どうして真冬さんは子供のように頬を膨らませたのだろうか。
まるで円華さんに張り合うような雰囲気を感じるけど……ジッと見守る俺に円華さんが教えてくれた。
「千夏君が可愛いから構いたくて仕方ないのよ。でもダメよお母さん、千夏君を抱きしめて良いのは私だけなんだから」
「娘の彼氏なんだもの私だって甘やかせたいわ」
「だ~め」
「……千夏君はどう? 私に甘えたくない?」
そこでそう聞いてくるのは辛いものが……。
っと、そこで俺は改めて真冬さんに目を向ける。顔立ちは円華さんに本当にそっくりで、髪の毛の長さが違うくらいだ。本当に円華さんをそのまま小さくしたような感じで……冗談抜きで可愛らしいお母さんだと思った。
「……なんか、円華さんと似てますね」
つい自然とそう言葉が出た。
見た目もそうだし、雰囲気の全てが似ている気がした。というか、円華さんと同じとことん甘やかしたいという気持ちが伝わってくる気がする。円華さんのお父さん、つまり真冬さんの旦那さんになるけれどもしかして……凄い甘やかされてるんじゃないだろうか。
「まあ私のお母さんだもの。それじゃあ少しお手洗いに行ってくるわね」
「分かりました」
立ち上がった円華さんはキッと強く真冬さんを睨んだ。睨んだと言っても軽めなので怖くはなさそうだ。
「私がトイレに行っている間に千夏君を誘惑しないでね?」
「……本当に信頼がないのね。娘の彼氏に色目を使うわけないでしょうが」
円華さんはチラチラと振り返りながらトイレに向かうのだった。
確かに真冬さんの言うように娘の彼氏、或いは息子の彼女に手を出す親というのは精々漫画の世界くらいだろう。まあ浮気という体であり得るかもしれないが、よっぽど歪んだ気持ちを持っていなければあり得ないはずだ。
「さてと、二人っきりになれたわね?」
「……………」
えっと……何ですかその色気たっぷりの言い方は。
つい顔を赤くしてしまい下を向いたが、小柄な体躯から放たれる色気はおそらく円華さん以上……これが大人の色気ってやつなのか。いや円華さんの母親だからこそってのもあるかもしれない。
「千夏君」
少し空気を引き締めるように表情を真剣なモノに変えた真冬さんに名前を呼ばれた。俺も釣られて表情を引き締め彼女の言葉を待った。
「円華のこと、本当にありがとう。詳しくは聞いていないけれど、あの子が深い悲しみの中に居た時に助けてくれたと聞いたわ。電話で千夏君のことを話す時、本当に楽しそうなのよ。さっきも言ったけど……あなたのことを凄く愛していることが伝わってくるの」
「……俺はただ……その」
「ふふ、そうやって素直に認めてくれない部分も可愛いって言ってたわよ?」
「……………」
俺は円華さんが真冬さんとどんな話をしたのか聞いたことはあまりない。聞いたとしても円華さんが話をしてくれた時くらいで……だからこうして改めて真冬さんから聞くと凄く恥ずかしかった。
でも、同時に嬉しかったのだ。
円華さんはこうやって自分のお母さんに話をするくらいに、俺のことを思ってくれていることが伝わってくるからだ。
「……俺、円華さんのことが大好きです。これから先もずっと、あの人の傍に居たいと思っています」
「うん。娘のことをよろしくお願いします」
「はい!」
これは……認めてもらえたってことで良いんだよな?
真冬さんとはこうして会えたけど、その内お父さんの方にも会ってみたい。どんな人か気になるし、どんな反応をされたとしても俺は円華さんと一緒に居るために頑張るだけだ。
これから先のことを考えてギュッと握り拳を作ったその時だった。
ぼよんと、凄まじく大きく柔らかい……けれども円華さんのではない膨らみが俺の顔に襲い掛かった。
「むぐっ!?」
「あぁもう本当に可愛いんだけど!! ねえ千夏君、円華は本当に迷惑を掛けたりしてない? 束縛が酷いとか、我儘が多いとかはない?」
あ、あの! 質問を返したいんですけどおっぱいに顔を塞がれていて喋ることが出来ないんですが!? つうかめっちゃいい匂い! 円華さんと比べるわけじゃないけどやっぱり真冬さんも母性が凄まじいぞ!?
「……あ、私ったらつい」
背中をトントンと叩くことで真冬さんは離れてくれた。
俺は一旦落ち着くように息を吐き……あの、胸は離しても体は離してくれないんですね。
「ほら、聞かせて?」
うん、この人は正真正銘円華さんのお母さんだ。
俺はそんな当たり前のことに苦笑し、円華さんのことを話し始めた。
「円華さんが迷惑を掛けるようなことはないですよ。むしろ、俺の方が最近は甘えまくってると言いますか……その、円華さんの傍に居るとどんどんと甘えたくなる気持ちがあるんですよね。隣に居ると温かくて、抱きしめてもらうと幸せで……とにかく円華さんの存在は俺にとって凄く大きくて、手放したくない大切な人なんです」
つい語りすぎたかと思ったが、真冬さんは優しく俺を見つめていた。そして、円華さんがするように俺の頭を抱きかかえてその豊満な胸元に誘った。
「今日会ったばかりだけど、千夏君のことは良く分かったわ。うんうん、娘が好きになるのも頷けるわね。ねえねえ、どんな風に円華に甘えるの?」
「……え?」
「私にしてみて? ほら、何かして欲しいことはある?」
危ない、この人も男をダメにする人だ……っ!
「ただい……まあああああああああっ!?」
「あら、もう戻って来たの?」
……取り合えず、真冬さんの人となりは分かった気がする。円華さんが究極進化すると真冬さんになることを覚えておこう。
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