新たな日々の始まり

 朝、小鳥の囀りが耳に届き千夏は目を覚ました。重たい瞼を擦りながら上半身を起こすと、甘い声が僅かに響き渡った。


「ぅん……すぅ」


 ビクッとした様子で千夏は隣に目を向けた。

 そこに居たのはまだ眠っている円華の姿、眠っている状態でも少し肌寒さを感じたのか体を丸めるようにしている。


「……あ、寒いのかそうだよな」


 ハッとして千夏は再び横になり掛け布団を被せた。少し冷たさが軽減されたのか円華は再び安らかな寝顔を浮かべ、横で眠る千夏に身を寄せてきた。


「……あ~」


 そこでようやく、千夏は昨夜のことを思い出した。

 円華と両想いになり、夢中になって彼女に甘えながらその体を堪能した。そしてその流れに身を任せるように、円華と更に深く繋がることになったのだ。


「……くぅっ!」


 思い出すだけで頬に熱が溜まり、鮮明に記憶が蘇ってくる。

 円華の色気ある表情や仕草、年下の千夏をリードする大人の包容力……千夏にとって永遠に記憶に刻まれる初体験だった。


「円華さん……凄かったなぁ」


 汚い言葉になるかもしれないが、円華の体は本当に極上だった。

 触っていて気持ちの良いすべすべの白い肌、大きくて柔らかく、そして張りもあるHカップの胸……そんな魅惑の肢体で美しい女性が迫ってくるのだ。こんなの夢中にならないわけがない。


「……まだ五時半か」


 少し早く目が覚めてしまったものの二度寝は出来そうにない。なので、仰向けだった体を横に向けて円華の顔を眺めることにした。


「……本当に綺麗な寝顔だな」


 円華のことはずっと綺麗な女性だと思っていたが、こうして新しい関係になったことで更に円華が美しく見えてくる。千夏よりも年上の彼女だが、今浮かべている寝顔は幼い少女のようにあどけない。


 円華の頬に手を伸ばした。すべすべでもちもちな肌の感触がとても気持ちが良い。ただ、そんな風に悪戯というレベルではないが触れているのだから相手が目を開けるのも当然だった。


「……?」

「あ……」


 円華が目を開け、彼女の瞳に映るのは当然千夏の顔だ。円華はしばらくパチパチと瞬きをしていたが、状況を飲み込んだのか異性を虜にするような微笑みを浮かべ千夏に抱き着いてきた。


「おはよう千夏君♪」

「……はい。おはようございます円華さん」


 こうして、二人は恋人になって初めての朝を迎えるのだった。

 しばらく円華を抱きしめていると、彼女が体を離して暖房を付けた。そして温かくなるまで再び抱きしめ合った。


「……夢じゃないんですね」

「当然よ。全部現実……昨日私は千夏君と繋がったの。あなたと愛し合うことを誓ったのよ?」

「……っ」


 そう、あれは絶対に夢ではなかった。

 円華と愛し合うことを誓い、彼女は千夏だけの存在になることを誓い、そして千夏は円華に溺れて一生傍に居ることを誓った。


「う~んっ! はぁ♪」


 起き上がった円華は気持ち良さそうな声を出して腕を伸ばした。可愛いゆるキャラが描かれ、もこもこの柔らかい質感のパジャマを着ている円華だが、そこに何か入ってるのかと言わんばかりに大きな膨らみがある。


「ふふ、見てるだけで満足できるのかしら? 言ったでしょ? 千夏君は甘えていいんだって、私はもう千夏君だけの女なんだから」


 その言葉は千夏に言い聞かせているような気さえしてくる。

 千夏が円華に甘えるのはおかしなことではなく当然のこと、そして円華が千夏だけの女だというのも当然のこと……だから何をしてもいい、どんな風に求めてもいいんだと千夏に言い聞かせる言葉のようだ。


「円華さんっ」

「いらっしゃい♪」


 腕を広げた円華さんの胸に飛び込んだ。

 パジャマの上からだが、下着を着けてないからこそダイレクトに伝わる弾力がとても気持ちが良い。これでもかと甘えてくる千夏の様子に、円華も愛おしい存在を見つめるように微笑んでいた。


 千夏と円華はそれからしばらくそうやってイチャイチャしていたが、朝食を作るために一旦離れることに。


「今日はこっちで食べていって?」

「良いんですか?」

「えぇ……少しでも一緒に居たいの。分かるでしょ?」

「……そうですね」


 少し察しが悪いわよ、そう言わんばかりに円華はツンツンと人差し指で千夏の胸元を突きながらそう言い千夏も頭を掻きながら頷いた。

 それからリビングに向かい、円華が朝食の準備をするのを千夏は見守っていた。


「……………」


 ボーっとしながら楽しそうに朝食を作る円華の姿を見つめている。朝の起きた段階から一緒の時点で特別な感じなのに、こうして朝食を作る彼女を見るのもまた幸せな一つの光景だった。


「出来たわよ」

「はい!」


 そして円華が用意してくれた朝食を平らげ、着替えやその他諸々の準備のために一旦部屋に戻った。


「……はぁ」


 夢ではない現実なのに、まだ少し千夏は飲み込み切れていない。

 自分の憧れだった女性と付き合うことになり、そして体の関係まで持って円華にあそこまで言われたのに、それでもまだ夢の中に居るような気分だった。


 しばらくはこんな感じでフワフワした気分なんだろうなと苦笑しつつ、身嗜みを整えて再び円華の部屋に向かった。


「……この温かさと香りなんだよな」


 自分の部屋より円華の部屋が落ち着くほどに、既に彼女の存在が千夏の体と頭の中に刻まれていた。それは間違いなく千夏が円華に染まった証でもあり、彼女をどうしようもなく求めている証でもあった。


「お待たせ千夏君」

「いえいえ、今日も綺麗ですよ円華さん」


 大学に向かうために私服に身を包んだ彼女に千夏は素直な感想を口にした。

 上着のおかげで体のラインはあまり見えないが、その下のセーターのみになった時に暴力的な体のラインが強調されるだろう。だがそれを独り占め出来るのはもうこの世界で千夏だけなのだ。


「ありがとう千夏君♪」

「円華さん……」


 お互いに見つめ合い、ゆっくりと顔を近づけた。

 昨日までと打って変わり、積極的になった千夏の心境の変化は分かりやすい。円華もそんな千夏を何も言わず受け入れるどころか、そうなるようにわざわざ雰囲気を出していたのもある。


「……俺、このまま円華さんと一緒に居たいです」


 高校生の仕事を破棄するような言葉だが、それが許されないことも当然千夏は理解している。それだけ円華と離れたくないということだ。千夏はただ単に寂しいからこそ口にしたが、それを見た円華はそれはもう嬉しそうに頬を緩めていた。


「大丈夫よ千夏君、帰ってきたらいくらでも一緒に居られるから。それにね? 寂しいのは私も一緒なのよ。出来れば永遠に家の中で千夏君と二人で居たい、外の雑音を一切感じずにあなたと二人だけの世界に居たい……でもそれは無理だから。分かるわよね千夏君?」

「……はい」

「……可愛いわね……っ……!!」


 弱弱しい千夏の姿に別に良いかなと思ってしまった円華だがすぐに首を振った。

 円華にしても千夏に今語った言葉には一切の偽りはないし、そうしたいと考えているのは違いない。だが、あくまでやるべきことはしっかりやった上で千夏との時間を満喫する……それが大事だと円華はちゃんと考えていた。


「千夏君、今日も一日頑張りましょうね」

「はい!」


 そう、帰ってくれば誰も邪魔することはない幸せの時間が待っているのだ。

 千夏も円華も、今からその時間が来るのが待ち遠しい。マンションから一緒に出た二人は前のように途中まで向かい、触れるだけのキスを交わして別れた。


 お互いがお互いを求め、止まることのない想いにある意味困らせられる日々が幕を開けた。千夏にとっては溺れた相手との日々、円華にとっては全てを捧げ愛すると誓った相手との日々……文字通り、全てが絡みに絡み合った愛の始まりだった。

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