包容力がヤバい
「……今日もお弁当だ」
「そうだぜ? あぁこのおにぎりを握ったのが……くぅ♪」
ごめん、今の俺めっちゃ気持ち悪いわ。
朝に円華さんからお弁当を受け取ってから学校に向かい、朝の授業を終えてお待ちかねの昼休みだ。いつものように涼真と白雪がやってきたが、俺はそれを気にすることなく円華さんが作ってくれたお弁当を広げたのだ。
「昨日もそうだけど本当に美味そうだな。隣のお姉さんって言ってたけど?」
「おうよ。美人でおっぱいが大きくて優しくておっぱいが大きくて」
「なっちゃんキモイ」
「……おっと、そいつは失敬」
何か大事なことを二回口に出した気もするが、まあ気にすることではないか。
苦笑する涼真とぷくっと頬を膨らませて睨んでくる白雪の視線なんてなんのその、このお弁当のおかげで俺はどんな奴が相手でも戦えるってものだ。
「……なんか、なっちゃんが遠くに行っちゃう気がするな」
「あん? 何だよいきなり」
「……何でもない」
それだけ言って白雪は自分のお弁当を食べることに集中し始めた。そんな白雪の頭を撫でながら、涼真が俺に視線を向けてこう言ってきた。
「嫉妬してるんだよ。仲の良い友人を知らない誰かに取られそうでさ」
「嫉妬……かもしれない。なっちゃんは大事な友人だし……私の知らない人に餌付けされているのが気に入らないよ!」
「餌付け言うな!!」
全く人聞きの悪い……まあでも、こうして友人だからと言って気にかけてもらえるのは嬉しいことだ。涼真と白雪の二人と出会ったのは高校からでその時はまだ二人は付き合っていなかった。
『やめろおおおおおおおおっ!!』
『なっちゃん!!』
……っ、どうでも良くはないが嬉しくない記憶を思い出した。
俺は頭を振ってそのことを追い出し、改めて二人に目を向けた。白雪は涼真に頭を撫でられながら不満そうに俺を見つめており、涼真に至ってはそんな俺たちを見て面白そうに笑っている。
「……なあ」
「なに?」
「どうした?」
「……………」
俺は箸で卵焼きを挟み、目の前に持って来ながら呟いた。
「自分の恋人にさ……こう、度を超えた悪口とか嫌がることをするのってどうなんだろうな」
「……う~ん、それって付き合ってるって言えるの? 世の中にはDVをする恋人から離れられないって人も居るけどさ」
「ニュースでも良く見るよな。俺からすれば理解できねえけど」
まあ恋人を揶揄うなんてレベルではない、その心を傷つける行為を涼真が許せるわけがないか。白雪も決して涼真の悪口は言わないし、涼真も白雪の悪口は絶対に言わない。揶揄うだけならまだしも、それが最低な行為だと分かっているからだ。
「……もしかして、その女の人の話?」
「……あぁいや、そういうわけじゃ――」
俺はすぐに誤魔化したが……いや、誤魔化そうとしたのがマズかったか。とはいえ二人は何かを察したのか特にそれ以降追及してくることはなくて、そういう部分に俺は二人の気遣いを感じた。
円華さんの作ってくれた特上のお弁当を食べ終えた後、トイレに行くと言って涼真が席を立った。残されたのは俺と白雪で、彼女は俺を真っ直ぐに見つめたままこう口を開いた。
「色々と聞こうとしてごめんね? でも悪気はないの……あの時からどうもなっちゃんのことに敏感になっちゃって」
「いや、全然良いよ。むしろ、良い友人を持ったなって思うくらいさ」
「……そっか。それなら良かった……でもね?」
「っ……」
笑みを浮かべて一度下を向いた白雪だったが、ジロリとその琥珀色の瞳で再び俺を見つめた。その瞳に宿る眼光に少しびっくりしたが、俺は彼女の目を見つめ返す。
「私にとっても涼真にとっても、なっちゃんは本当に大切な友人なの。もしもその人がなっちゃんに良くないことをするなら私は許せない。……まあ、なっちゃんの様子を見る限り大丈夫そうだけど」
「まあな」
「……おっぱいも大きいらしいしね!!」
「おまっ!?」
教室なのに声がデカいんだよ全く!!
ふんとそっぽを向いた白雪に俺はため息を吐きつつ、改めて白雪も涼真も俺にとって素晴らしい友人なのだと実感した。少しおせっかいな気もするけど、そう言うときっと白雪は文句を言うし黙っておこう。
それから午後の授業の時間を過ごし、放課後になったので学校を出た。
今日は二人の誘いを断らせてもらい、俺は一人で街のとあるお店に出向いた。場所は駅前で色んな店が立ち並ぶ通りだ。
「いらっしゃいませ!」
見るからにオシャレなスイーツショップに足を踏み入れた。
涼真と白雪は良く二人で来るみたいだけど、当然彼女が居たりしない俺はこういうところに来たことはない。
「……円華さんの好きなお菓子って何だろう」
……よくよく考えたら何も知らないんだよな。
ってマイナス思考はここまでだ。取り合えず、イチゴのショートケーキは定番でシュークリームもありだな……あ、このアップルパイ美味しそうだ。
「すいません、これでお願いします」
「ありがとうございます」
店員さんから紙袋を受け取って俺は店を出た。
その帰り道、何とも派手な男女の二人組を見た。見るからにチャラ男とギャルっていうか……う~ん、あまり関わり合いになりたくない見た目だった。人を見た目で判断するのは悪いけど……男の方はタバコの吸い殻捨ててるし、女の方はそれに対して注意も何もしないのだから。
「……ったく」
俺は彼らが歩いて行くのを見送り、ある程度離れたところで捨てられた吸い殻を拾った。少し離れたところにある喫煙所まで向かい、俺はその吸い殻をちゃんと捨てておいた。
「さてと、それじゃあ帰るか」
早く円華さんに会いたい……って、ここまで考えてどんだけ気になってんだよって思ったけどあんな風に接せられたら仕方ないよなぁ。
「……また叩かれたりしてない……よな?」
気づかないうちに俺は足早に帰り道を歩いていた。
マンションに着いて自分の部屋よりも円華さんの部屋へ、インターホンを押すとすぐに扉が開いた。
「お帰りなさい千夏君♪」
「ただいまです円華さん」
「ほら入って?」
「はい……うん?」
円華さんは喋りながら、俺の手を取って部屋の中に迎え入れた。まるでそれが当たり前のように手を引かれたのでびっくりしたが……えっと、お邪魔します!
「円華さん、これ買ってきたんです」
「え? うわぁ、凄く美味しそう♪」
紙袋の中身を見て円華さんは嬉しそうにしてくれたので俺も安心した。
そして、チラッと円華さんに気付かれないように昨日帰って来た時に赤かった頬に目を向けた。……うん、特に叩かれた後はなさそうで安心した。
「……心配、してくれたのね?」
「はい……え!?」
さっきは見てなかったのに、そう思って俺は驚いて目を向けるとバッチリと円華さんは俺を見つめていた。……おかしい、やっぱり円華さんの目を見ているとなんだか気分がフワフワしてくるようだ。
「何も心配することはなかったから安心して? でも、心配してくれたこととお菓子のお礼をさせてちょうだい」
「……あの」
再び優しく手を引かれてソファまで連れて行かれた。
腰を下ろした円華さんが太ももの辺りをポンポンと叩いた。……これはまさか伝説の膝枕というやつでは?
「おいで? お姉さんが癒してあげる♪」
そう言った円華さんの言葉に俺は逆らえなかった。
……認めると負けそうな気がするのだが、どうも心の内側を侵食してくるような甘い何かを感じる。でもそれが嫌じゃないのは確かで、俺は円華さんの誘導に従うように彼女の太ももに頭を置いた。
「良い子良い子、可愛くて優しくて……とっても良い子よ千夏君は」
「……そう、ですかね」
「嘘は言ってないわよ? お風呂の準備とか夕飯の準備もあるけど、少しこうしていましょうか。ね?」
自然と俺は頷いていた。
……冷静に考えてみてこの包容力は本当にヤバいって思う。上手く言葉で言い表せないけど、足元から段々と捕まえてくる何かが居る気がするのだ。
「……ほんと大きいなぁ」
ボーっとしていたからか、目の前にある大きな二つの膨らみを見てそんな呟きが漏れて出た。当然円華さんには聞かれていたようで、彼女はクスッと笑った。
「エッチ♪」
ごめんなさい、すぐに俺は謝った。
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