第四話 邂逅
―― 数日後
麻矢は母親と共に来月から通う中学の入学前ガイダンスに向かっていた。いよいよ中学生になるのだ。麻矢は色んな期待を胸に抱いていた。
「中学になったら算数じゃなくて数学とか難しくなりそう」
「みんなも同じよ。焦らないで、自分のペースでやればいいの」
「うん。それに部活とかどんなのがあるのか楽しみなんだ」
麻矢は楽しみにしながら言った。
やがて今度から通う学校の校門までやってきた。
学校に到着して受付の行われている中央の広場へ向かった。自分と同じようにガイダンスを受けに来た人が多かったので時間がかかりそうだった。
「まだ時間もあるし、先に校内見学でもしてきたら? お母さんがここで並んで受付しておくから」
「え? うん。じゃあ行ってくる」
母親に促され、麻矢は列を抜けて見学場所に向かった。
校内を見学している途中、高等部の校舎の方でも多くの人が訪れているのが見えた。
(中高併設だから、部活動も一緒なのかなあ――あれっ?)
麻矢は思わず足を止めた。今、確か――
(そんなはず――)
麻矢の心臓が次第にドキドキしていた。それは、ある種の期待感なのか、それとも――そして、麻矢が見つめた先の男が振り返った。
「――っ!」
麻矢は驚いた――すると相手も同じように驚いた表情をしていた――そんなはず、ない。そこにいた男は氷樹だった。
「どうして――」
「お前は確か麻世の……」
「わ、私は今日入学前のガイダンスに来たんです」
「……お前、もしかしてここの星蹟学院に入学するのか?」
「はい――」
麻矢はまさか、と思いつつ訊いた。
「あの――先輩はもしかして……」
「ここだ」
「ええっ」
嘘――
麻矢は信じられないような気持ちで氷樹の言葉を聞いた。
「じゃあ――」
「そうだったのか……そうなのか。お前はここを受験――ここの中学に入学するのか」
嘘でしょ――こんな偶然――こんな奇蹟があるはずがない――
「同じ学校だったんだな」
麻矢はそこで初めて氷樹と同じ学校に通うことを理解した。心臓が大きく揺れている。何か期待するようなドキドキ感――
「ほ、本当に……本当に先輩はここの高校に入学するんですか?」
「ああ、そうだよ。ここの――星蹟学院高等部の理数科に入学するんだ」
「あ……」
麻矢はあまりの
「お前は星蹟学院の中等部に進むんだな」
「はい……」
「なら、学校で会うかもな」
「は――はい」
「麻世とは知り合いだったのか」
「そういえば、麻世ちゃんは紹蓮女子だったけど受験するって――」
「麻世は
「霧ヶ谷なんですか。国立って聞いていたけど、やっぱりすごい……」
すると、麻矢の携帯が鳴った。母親からだった。
「あ――今お母さんが受付のところにいて――」
「そうか。じゃあ、またな」
「はい――」
麻矢はぼうっとその場に立ち尽くしていた。周りを歩いている人がどうしたのか、と麻矢を見ている。
――夢じゃない。
するとまた母親から電話が来て、慌てて麻矢は母親の元に向かった。
◇ ◇ ◇
「……」
氷樹は家に帰る間もずっと麻矢のことを考えていた。これも何かの縁なのだろうか――そんなことを少し思ったが、ただの偶然に過ぎない。妹の塾に通っていた妹の友達が、たまたま自分と同じ学校の中学に進学するということだ。
家に帰ってきた氷樹は、麻世に麻矢のことを話そうと思った。
「おかえり、お兄ちゃん」
「高校の入学前のガイダンスに行ったら、そこに立花がいた」
「えっ? 麻矢ちゃんが?」
「立花はどうやら星蹟学院の中学に入学するらしいんだ」
「そうなの?」
麻世は驚いたように言った。
「さっき、学校の中で会ったんだ。中学はそこに通うと」
「麻矢ちゃん、星蹟学院中なの?」
「そうらしい」
麻世は、そういえば麻矢の受験する中学を聞いていなかったことに気が付いた。
「じゃあ……お兄ちゃんと同じ学校?」
「そうなるな――校舎は別になるが、隣接している」
「そっか……じゃあ麻矢ちゃんともまた会えるかもしれない。けど、いずれにしても私はお兄ちゃんと一緒に学校に行けることが心から楽しみ!」
「……そうだな」
何かが色々と変わり始めている。
もしかしたらこの退屈な人生も少しは変わるのかもしれない――氷樹はそう思い始めた。
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