歯の矯正
最近よく聞く冗談で、
アメリカで生きていくのに必要なもののリストの中に
「筋肉」
「口を大きく開いた笑顔」
「白い歯」
というものがあります。
(※これ以外にも、いろいろあります、念のため)
アメリカという国はとてもシビアでサバイバルな反面、わかりやすい国でもあって、
こういった武器を持つことで、わかりやすく人が心を開いてくれるといった面もあります。
私や私の兄弟も、子どもの頃歯並びを良くするために、歯の矯正を12歳頃〜15歳頃に行いました。
これが、痛くて痛くて。
クラスメイトたちが全員やり始めていた頃、私も始めたので、「歯に変なものつけてる……恥ずかしい」というコンプレックスを全く感じなかったのは幸いなのですが。
(むしろ、つけ始めたときは、クラスのみんなと同じ歯になった!という気分でした)
初めて矯正をつけた時の痛さといったら、幼い頃に成長痛で手足がミシミシと伸びた、あのじんわりとした痛さを倍にしたような辛さが、あごの中に襲ってくるような感じで。
毎晩毎晩、泣いたものです。
それでもだんだんとゆるんできて、楽になってきた、ああよかった、と思うたびに。
歯医者さんの予約が待ち受けていて、元の繰り返し。
ある時、おじいちゃん、おばあちゃんがロサンゼルスに遊びに来たのですが。
ちょうど歯の矯正を締め直したばかりで、大好きなおばあちゃんが話しかけても、痛いんだよ、としか言わず。
バーベキューの場でも
特に反抗期だった私は、父親が私に話しかけてきても、
「だって楽しくないんだもん!」と生意気盛り。
「どれ、おばあちゃんが、ハチミツちゃんにオレンジジュースそそいであげるから」
と、優しく言って、オレンジジュースをもらっても、お礼も言わず不機嫌な顔をしていたふくれっつらが、ばっちりビデオに残ってました。
なお、かなり天使な性格だった妹が。
「ハチミツちゃん、バーベキューでは、そういうこと言っちゃいけないんだよー」
とつたない言葉で、私をたしなめていました。
そりゃそうだ。
遠方からはるばる来てくれた、おじいちゃんおばあちゃんをおもてなしする場所で、孫がぶすくれていては、おじいちゃんおばあちゃんがかわいそうです。
妹よ、君は正しい。
(妹はこういう性格だったので、担任の先生と母が保護者面談をしたとき。
“Everyone in the classroom likes her.”
彼女はクラスの人気者ですよ、と評されたそうです)
痛いのはわからなくもないけどね。
そして、歯の矯正は、器具をつけた時の痛さだけにとどまりません。
親知らずを抜く、という苦行!もあります。
私の姉が親知らずを四本抜いた時は。
一週間ほど寝込んで、固形物は一切口にすることができない、つらそうな様子で。
いざ、私の番となった時は。
「四本抜く?それとも、下の歯の二本だけにする?」
と歯医者さんに聞かれたとき、迷わず
「二本!」
と答えました。
根性のある姉は、迷わず四本を選んだというのに……我ながら、甘ったれでした。
それでも、手術をしたときは、かなりつらくて。
麻酔が効いていたので、手術が終わったあとも自分の足で母親に手を引っ張ってもらいながらなんとか帰れたらしいのですが。
やはり、しばらくは固形物を食べることは、できなかったです。
お味噌汁やキャンベルのオニオンスープ、モリニュー豆腐の湯豆腐(モリニューとは、ロスで日本人向けに販売されていた紙パック入りのお豆腐のブランドです。調べたら、森永乳業の在米法人のようです)……
ほとんど歯を使わないで食べられるものをすすって、命をつないで何日か。
まるでりんごのように腫れあがったほっぺが、ほんの少しだけおさまったところで、床上げで。
この時、小学校一年生で盲腸で入院して以来、
「病気になるって、大変だ」
と改めて感じたものです。
(実際には違うけど)
全く関係ないのですが、
歯の矯正をつける前に歯医者さんや看護士さんたちには、
“Don’t eat something gummy or chewy.”
と言われました。
この時、gummy=ガム的なもの、というのはなんとなくわかったのですが、chewyの意味が分からず。
たぶんガムに近いものでしょ、と思って辞書を調べたら、やはりそうでした。
「チューイングガムの語源的なものね」
と、その時新しい単語を一つ覚えたこと、なぜか今でもはっきり思い起こせます。
(早く気づこうよ)
私の言語習得は、
「あーなるほど、この間覚えた、○○的なやつのことか」
と、一つ一つを関連づけて覚えていくやり方で。
まるでアリの巣を広げていくような方法でした。
ということは。
アリの巣を、一つでも多く作らなければいけないということで。
私のアメリカ生活は、毎日が勉強の繰り返しで、退屈とは全く縁のない日々で、
今思うと、子どもなのによくがんばっていたな、と自分たちを誇らしく思います。
同じように、受験をがんばっている、小学校五年生、六年生、
日々を積み重ねながら、生活していることだと、応援したくなる気持ちになります。
話がだいぶずれちゃったけど。
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