がらくた

 どうやって死ぬか、そんなことばかり考えていた。


 僕は小さい頃から漫画家を目指していた。

 昔から少年ジャンプやサンデー、マガジンを毎週買って、自分でランキングをつけ、分析するのが趣味だった。

 高校生になると、モーニングやアフタヌーンも好きになって、世界が広がりだした。『寄生獣』は僕の目標とする作品の一つになった。そして僕は漫画を描くようになった。

 最初は先達の真似をして、見様見真似でコマを割り、なんとかストーリーや設定を考えた。Gペンも最初は慣れなかったけれど、少しずつ自由に描けるようになった。

 授業中はずっとストーリーを考えて、放課後すぐに家に帰ってネームを描き、ある程度話がまとまると、ペンを入れた。

 夏休みに入ると、一日中部屋にこもって漫画を描いた。両親は心配した。引きこもりになったんじゃないかって。一人っ子だから、より心配してくれたのだろう。

 僕は人生の全てをここに詰め込むんだと、そう意気込んで漫画を描いた。何日かかったのだろう。ついにその作品は完成した。僕の中で最高の作品に仕上がった。

 誰かに見て欲しいと思った。僕が描いた最高の作品。きっと喜んでくれるに違いない。きっと漫画史に残るに違いない。

 両親に見せようかとも思ったけど、親はこんな漫画なんか描いてと怒るだろうから、他の人にしようと思った。友達に見せるか。どうしようか。

 結局いとこに見せることにした。時々家に遊びに来る、一つ下のいとこだ。

 ある日そのいとこが遊びに来たので、僕の部屋に上げた。そして漫画を見せることにした。

「がらくた」というタイトルのコメディタッチの冒険漫画だ。

 僕は胸を高鳴らせた。どう思うんだろう。どう感じるんだろう。こんなに胸がどきどきしたのは初めてだった。

 彼に原稿を差し出した。

 彼は、ああ、とか何とか言って読みだした。

 彼がページをめくるごとに、僕はうきうきした。笑ってくれるかな、笑ってくれるといいけど、と思った。

 けど彼は無表情でページをめくっていた。

 ついに全部読み終わった。

 どう、と僕は彼に尋ねた。

 すると、まあ、別にいいんじゃない、と彼は言った。感想はそれだけだった。

 僕は落胆した。

 そうか、つまらなかったんだな、と思った。

 彼は僕の描いた漫画への興味をすぐに失ったらしく、ゲームでもしようよと言ってきた。僕は拒否した。僕はトイレに行くと言った。トイレで泣いた。こんなに涙が出たのは久しぶりだった。

 僕の「がらくた」は本当にがらくたになった。ゴミだ。何の役にも立たない。何の価値もない。文字通りのがらくただ。

 僕は自分を天才だと思っていた。けれどそれは勘違いだった。僕には才能なんてこれっぽっちもないんだと思った。とにかく悔しくて涙が出た。

 原稿は破り捨て、川に投げた。

 

 その日から、どうやって死ぬか、そんなことばかりを考えるようになった。

 僕の思いは誰にも届かないのだと思った。

 それほど真剣に向き合って、漫画を描いていたのだ。でもその漫画はいとこの心には響かなかった。


 結局死ぬ勇気はなく、僕は今も生きている。僕は漫画を一切読まなくなり、普通に大学を受験し、平凡な大学生になった。昨日と同じような今日を毎日繰り返している。空想癖はなかなか抜けなかったが、意識して少しずつ空想することを減らすようにした。そうして段々と現実的にものを考えるようになっていった。でも、ふとした瞬間に、日々の中で何か大切なものが欠落してしまっているという気がした。体にぽっかりと穴が開いてしまったみたいに感じることが時々あった。

 そんな時に僕は空想する。千切れた「がらくた」が魔法のような力で修復され、川を渡ってどこかの誰かに届き、そしてその人にとっての大切な作品になっているかもしれない、と。

 

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