第4話 「アルマギアへの道」

出発当日。

町の入口へ向かうと、大きな幌車が何台も用意されていて、周りには屋台も出ていた。祭りかよ。


人だかりの中央にマチェルドを見つけた。

「む、来たか。」

「あぁ。こっちとしても、雇い主が先に死なれては困るからな。」

「否定はせぬ。ただし、流石に王の前での発言には気を付けろ。我も庇いきれぬ。」

「そんな非常識な事しねぇよ。」

「おい、今我に死ねと言ったか?」

「いや言って無ぇよ!?」

「冗談だ。」

「…」


このまま話を続けるのは不可能だと判断したトモキは、今日の流れについて考える。

王都までの道は、片道4時間あるそうだ。

その間、常に気を張り続けるのは厳しいものがある。

護衛には一応他の兵士も就くと言うが、はて、どうしたものか。


「あなたが、ハルト様ですか?」

不意に背後から話しかけられ、思わず体がピクッと跳ねてしまう。

「え、あ、はい。…どなた?」

「私は、シェイルン騎士団団長の、マースと申します。以後、お見知りおきを。」

その男は、いかにも中世の騎士と言った見た目の、小柄の老人だった。

腰には刀のような物を装備していて、鞘は返り血で染まっている。

「はぁ。そんな方が、俺に何かようで?」

「いえ、別に。。我々に協力して頂く御仁に、ちと挨拶をと思いましてな。」

「あ、そうなんですか。…今日は、お互い頑張りましょう。」

「えぇ、全くです。」


…あの男、気配を何も感じ取れなかった。

歩く音すら消し、悟られず近づく。

あの爺さんが敵だったら、多分俺は死んでいた。

何者だ?


☆★☆


「では、出発だ。」


王都への遠征組が幌車に乗り込み、村から出る。

今回のメンバーは、シェイルン、俺、マース、その他騎士数名だ。

因みに、王都での食事兼雑用として、ハルトも来ている。


「何で僕も連れてこられたんですかねぇ…」

「日頃の行いが悪いんだよ。」

「あなたよりはよっぽど良いと思いますけど!?」

「失礼、他事考えてた。もう一回言ってくれ。」

「もういいですよ…」


いつもの感じで漫才を終えると、護衛用の車に飛び移る。

「おぉ、危ないですぞ。」

「すいません、これが楽だと思ったんで。」

「ほっほっほ。なぁに、落ちても、全身の骨が砕けるだけですぞ。」

「怖い!」


後先考えてない自分の行動を呪っている所に、一人の兵士がこちらへ来た。

「団長、よろしいですか?」

「何だ、言ってみろ。」

「南東方向に二間ほどの距離、敵です。」

「早速か…良かろう。そのままにしておけ。」

「あれ、倒さなくていいんですか?」

「大丈夫ですよ。『トンベェはまほろばの夢を見る』と言いますしね。」

突然の質問にも丁寧対応。素敵な上司だ。

しかし、聞きなれない単語が出てきたな。

「それ、なんて意味?」

「自分から罠に嵌ってしまう愚かな者の事を表す言葉です。昔からの教えですよ。」

「はえぇー。」


敵を警戒しながらの旅は、暫く続いた。


☆★☆


村を出て二時間ほど経って、休憩時間となった。


「あの、止まると敵が来るんじゃ…」

「言ったでしょう?自分から罠に嵌る、愚かな者と。」

穏やかな雰囲気とは裏腹に、その笑みは獰猛な肉食獣の顔だった。


数分経つと、誰かの悲鳴と共に、待ってましたとばかりに敵が来る。

返り血を浴びてるあたり、何人か兵士もやられたのだろう。

「この数…囲まれてますね。」

「いやぁ、大丈夫でしょう。では、少し離れててください。」

「でも…」


「ハルトよ。」


その声の主は、シェイルンだった。

「なんでだよ!あの爺さんピンチだぞ?」

「まぁ黙って見ていろ。すぐわかる。」


☆★☆


「おい、手前らシェイルンの民だろ!」

「それがどうした。村へのご入用なら、この老体に頼む。」

「そうだ、老体は黙ってな。長を連れてこい。」

ふてぶてしい賊の態度に、マースが顔をしかめる。

「交渉の余地は、無しと言う事でよろしいかな?」

「あぁ、お前じゃ話にならない。」

「…口での話が出来ぬなら、こいつで話を付けようではないか。」

そう言って、マースは剣を鞘から出した。

男はにやりと笑うと、後方の部下達に向かって指示をする。

「おい!数で押してしまえ!」

刹那、森から何十人もの男達が押し寄せ、大量の殺意のままに老人の体を

蹂躙した…かのように思われた。


それは、老人の一振りによってかき消された。


「枯紅・落椿の舞」


最初に空中で7人、体を分解された。

その事にも気付かず、愚かに突進した者は、頭を粉々に砕かれ、骸となって散った。

親玉は、動じずに見ていた。


「…こんなもの、か。」

たった今、襲い掛かる敵を全て切り伏せた男とはとても思えないような静かな動作で刀に付いた血を払いながら、マースは感想を端的に述べた。



…何だ、あいつは。

「ふむ。今の動き、やはり見事な枯紅だ。」

「おい、枯紅って何だよ。ありゃ人間の動きじゃねぇ!」

「案ずるな、彼も人間だ。超越者である事には変わりがないが。」



「まだ、戦うか?」

マースは、まるで駄々をこねた幼子を諭すように、親玉に話しかける。

「悪いな、自分は一度決めたら最後まで事通す性分なんだ。」

「その心意気、男として相応しいなり。」

男は立ち上がり、剣を取る。

マースもまた、覚悟を決めた者を送り出すように、剣を向ける。


勝敗は、一瞬だった。


「流石、『呪縛紋』だ…」

血飛沫が舞い、地面に命を描くように血を流し、男は倒れた。

その様が、ひどく目に焼き付いた。

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断罪の指鉄砲~世界、救います~ 宮谷ロク @harimoruto

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