一章 国境の村
第1話 「35点」
「君たち、ボクの仕事を手伝う気は無いかい?」
謎女が、腹黒さ前回の顔で笑っている。
やめてよ、ちょっと、怖い!
「あのぉ…仕事って言われても、私何の事かさっぱりで。」
空気を読めているのか読めていないのか、ずれた質問をする優香。
…こいつ、仮にも好きな人の前で服着てないんだよな?
なんでそんなにキリッとした顔で質問できんの?
「あ、そうか。君は別にお呼びじゃ無いもんね。…どうするかい、このまま天国っていう手もあるけど…」
「い、嫌です!私はこのまま、智樹君と一緒にいます。」
俺の腕を掴んで離さない優香。
あ、柔らかい!
「そう言われたってねぇ…。こっちにはこっちで、約束と言う物があってだね?」
「いや、約束なんてしてないよ?何言ってんのお前?」
「君は黙っててくれないかな?そして、ボクの名前はカルテと呼んで欲しいな。」
そう言うと、カルテはスルリと髪を撫でる。
なんだかんだ、こいつは美女なんだよなぁ。
「…何だかいやらしい目線で見られている気がするね?はぁ、まぁいい。問題は、そこの小娘だ。」
「小娘…優香の事か?」
「あぁ。君は転生耐性が高いから大丈夫だが、この子は常人より少し高いくらいだ。安易に送ると、それこそ死んでしまうぞ?」
…そうか。それは流石に嫌だな。
出来れば、優香には一生幸せに生きてもらいたいのだが。
待って、俺ってばいつからこんな事を?
そんな感じで俺が中学生見たいな事を考えていると、カルテが呆れたように話す。
「分かった、分かったから。トモキ、この子は必ず君の世界へ送ると約束する。神の名においてね。だから、少し時間をくれないか?ボクが何とかこの子を別世界に転生させても魂が崩壊しないようにしてみせるから。」
「お、おう…。俺としては、まだまだ説明足りな過ぎると思うんだけど、大丈夫なの?」
「向こうに行ったら、また説明する。…覚悟はできたかい?」
「覚悟も何も、もうすでに死んでるからな。…優香を頼む。」
「分かった。では、君を第三世界に送る。くれぐれも、死ぬなよ?」
カルテの声と共に、床に魔法陣が現れる。
「え、何今のドラ〇ン〇ールみたいな設定!」
「うるさい!さっさと行ってしまえ!」
「智樹君、頑張って!」
「おう、任せとけ!」
いつものハッタリをかましつつ、俺は魔法陣に飲み込まれた。
☆★☆
目が覚める。
ここはどこなんだ…?
「おはよう、少年。ここは教皇国アルマギアの国境近くの森、カルデラ密林だ。」
カルデラ…?中学校の社会を思い出すな。
あれ?違ったっけ?
「君はよくその記憶力で高校に入れたねぇ…。」
あの謎女はいないが、声は聞こえる。
念話というヤツだろうか。
「うっさいやい。…で?本題を話せよ。」
「そうだね。では、本題に入ろう。前にも言った通り、君に頼む仕事は世界の敵の撃滅だ。」
「具体的に、何をすればいいんだ?その、世界の敵っていうのが分からん。」
「そうだね…。少し長くなる。聞けるかい?」
「てやんでぃ。」
「てや…?まぁいい。説明しよう。今ボク達がいるのが、教皇国アルマギア。この国の国境付近から、古代の遺跡が見つかった。でも、あんまり国境に近いから、遺跡が隣の国、メギルド王国に跨ってしまってね。権利争いの為に、二つの国は一触即発というわけだ。そして、この国は以前から戦火が絶えない国なんだ。このままでは、国同士のバランスが崩れて世界の崩壊につながりかねない。だから、君には世界の危機を救って欲しいんだ。」
「おい、それって戦争を止めろって言ってんのか?」
「あぁ、この戦争は、世界の敵だからな」
「ちょっと待てぇぇ!無理無理、無理だぞ俺には!さっさと返して!優香と一緒に天国に行く!」
「戻れないよ?」
「そうだったぁぁぁ!」
さんざん後悔した後、切り替えて話を聞くことにした。
まぁ、いまさらなに言ったって変わんないしな。
「ボクにも、なんの力も無しに世界平和なんて虫のイイ話は無い事くらい分かっている。」
「というと?」
「君に、お約束の転生特典を渡そう。」
つ、遂に来た、チート特典!
さぁ、言ってみろ、さぁ!
「断罪の指鉄砲だ。」
「は?」
「だから、ゆびてっぽう。君の指から、エネルギーから作る弾丸を打てるんだ。」
「…35点。」
「なんで点数を付けられてるのかな!?」
☆★☆
「それじゃ、使い方を説明しようか。」
「ふあぁ…ん、ごめん。もっかい言って?」
「あくび!?もしかして君、意外と適応力があるタイプなのかな?」
「つまんないと思っただけだよ。…もっと良い物無かったのかよ?」
「というと?」
「チート魔法とか、最強の剣とか。」
「あるわけないだろ。そんな物があるんだったら、ボクが終わらせている。」
「それもそうか。…で、使い方早く教えろよ。」
「君が遮ったんだろ?」
「細かいな。…早く。」
「…指を前に突き出し、銃弾をイメージしてみろ。」
「こうか…?お、出てきた出てきた。撃ってみるな!」
「あ、ちょ!待て!」
ばぁん!
俺の指先から轟音が鳴り、目の前の木に風穴が空く。
それと同時に、俺の手に鋭い痛みを感じる。
「ううっ、…あ、て、手が!」
確認すると、俺の手は今まで見た事が無いくらいにズタズタだった。
発射した人差し指なんて、もげそうになっている。
「あ、ごあぁぁぁぁ!!!」
「だから言ったじゃないか。待てって。人の話は、ちゃんと聞いた方がいいよ?」
「うる、せぇ…これ、何とか、なるのかよ…」
「…はぁ。しょうがないな。一回だけだよ?」
そう聞こえた瞬間、俺の周りが光に包まれる。
手を見ると、傷がみるみる再生している。
「これ、本当に一回しか出来ないんだ。…だから、もう無茶しないでね?」
「あぁ、分かった。…で?こんなイカれた能力でどうしろと?」
「改善策が無いなんて一言も言ってないんだが…。今からそちらに物を送る。受け取ってくれ。」
数秒ほど間が開いて、手元に箱が下りてきた。
親方、空から箱が!
「その中に入っている手袋を使え。そうしたら怪我なんてしなくなる。」
言われたままに、手袋をはめてみる。
皮で出来たように見えるが、付けている感覚をまるで感じない。
黒色がベースで、手の甲辺りに紋章のような物が描いてある。
「なるほど。この紋章が魔法陣代わりとなって、怪我を無くすんだな?」
「いや、実家のトイレの壁紙の模様落書きしただけだよ?」
「ふざけんな!俺の仕事道具は便所以下か!」
「うるさいなぁ。…ほら、さっさと探索だよ!ここからは、あまり干渉しないようにするから。じゃ!」
「あ、待て!」
それっきり、声は聞こえなくなってしまった。
…どうするべ?
☆★☆
その後、俺は一週間森の中をさまよい続けた。
途中で能力の練習がてら魔物(多分)を倒して何とか食いつないだ。
でも、もう限界だ。
_後二日で、死ぬな。
あても無く、ただ延々と同じような光景が続き、つい最近までただの高校生だった俺の心は限界だった。
…死にたい。死んで楽になりたい。仕事?知ったこっちゃねぇ。
どれくらい歩いただろうか。
意識さえ朦朧としてきた時、どこからか声が聞こえた。
吸い込まれるように、その場へと向かった。
見ると、男二人が子供を蹴って遊んでいる。
「…あれだけでも、助けるか。」
弱っている事を悟られないように、敢えて近づく。
「…おい」
「あ、なんだお前。」
「文句あんの?」
若いな。俺よりは年上だろうが、完全にアホそうな見た目だ。
「いや、年上が年下の事いじめて、何が楽しいのかなぁって。」
「…ふざけんのも大概にしろよ?」
ふざけてるのはどっちなんだよ。
少しカチンと来てしまったので、俺はさらに相手をたきつけてみる。
「お前らも大概にしろよ?ブーメラン刺さってますよ。」
「訳わかんねぇ事言うんじゃねぇ!行くぞ、とっちめろ!」
男達が向かってきた。
二人ともこん棒のような物を持っていて、どう考えても当たれば致命傷は避けられない。
落ち着け…。手袋をはめ、目の前の相手の間に狙いを定める。
ダァン!と大きな音が鳴って、稲妻が走るように光の線が二人の間を貫き、右の男の耳を微かに掠める。
「…は?」
男達の動きが止める。
このチャンスを生かさない手は無く、更にハッタリを重ねる。
「まだ…戦うか?」
正直、自分の器用さに任せたお祈りショットだったのだが、相手が戦意を無くすには十分だったようだ。
「お…覚えてろ!」
男達は、お決まりのセリフを吐き捨てるように放って去っていった。
「ふぅ…。何とか助かったか。」
それにしても、これが異世界なのかと思案に耽る。
前の世界では、そもそも当たり前のようにこん棒を持っている事さえおかしいのに、自分はさらにそれを上回る異質さを持っている。常人の適応力では、すぐに脳がパンクするだろう。
しかし、今は考えるよりも先にやるべき事があるだろう。
「君、大丈夫かい?」
「…ありがとう、ございます。」
痩せた見た目の少年だ。
見た限りは幼く見えるが、15歳くらいだろう。
「ハルトって言います。…この先の村のお屋敷で料理人やってます。」
料理人か…。
お腹すいてるし、飯でも頼もうか。
あれ?だんだん意識が…。
俺はそのまま眠ってしまった。
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