一人で食べたい

 わたし、外食が嫌いである。出来ないと言った方がいいかもしれない。

 なぜ出来ないかというと、人と話すのが嫌だから。人の中で食事をするのは食べた気がしないのだ。人との約束などでしかたなく外食するときは我慢している。そして食事の後にコンビニなんかに寄って好きな食べ物を買い込み、直前の店で食べた量以上にお腹いっぱい一心不乱に食べる。ガツガツ食べる。それはつまり、外食で抑圧された精神の解放といことだ。そのときにとても満たされた感覚を覚えるのだ。

 だがこのような状況を自分で納得しているわけでも無い。実際には店で楽しんで食事が出来ればさぞいいだろうと思う。店の中で周囲にそういう客を見るとうらやましい。

 そういう意味では、寿司店のカウンター席などは、わたしの恐怖の対象の一番手とも言える。

 以前に何度か知り合いとそういう場面になったことがあったけれど、あの『カウンター越しに食べたいものをその都度注文する』というのは地獄かと思う。なのでわたしはずっと、最初から最後まで一緒に行った相手と「おなじもので」と言って注文し食べ続ける。そのとき注文する寿司にはもちろんわたしの好みではないものもあるし、他にもっと食べたい魚もあるのだが、自分はこれが食べたいと言うことを寿司職人に話しかけるのが嫌なのだ。それをするくらいなら我慢している。

 寿司屋に行って、そんなもったいない。寿司好きには考えられない。と思う人もいるだろうが、わたしは堪えられないのだ。自分の好みを相手に伝え続けるというのが恥辱を味わわされているような気さえする。

 だからそんなことをするなら、椅子席で寿司を一人前頼んで、後はひっそり黙って干渉を受けずに食べたい。けれど寿司店で一人で入って椅子席が許されることは少ないだろうと思う。大概の客ならむしろ、カウンター席が空いていれば喜んで座るだろう。

 それらの、相手に何の落ち度も無い身勝手な拒絶反応のせいで、わたしは外食全体を避けるようになって久しい。元々友人知人も少なかったのが、年取って疎遠になったのも手伝って、宴会のような場所に顔を出すこともなくなった。かれこれ3年以上、外食していない。

 そういう意味では近年、一人客用の対応が増えているのはわたしにとっては朗報なのかと思う。注文も券売機だったりタッチパネルでだったりする。

 その逆の方向へ発展していた飲食店も以前に見た。入店すると店員が大声で挨拶してきたり、なぜか飲み物の注文で店員が一緒に乾杯をしようと持ちかけてくる店があった。「ええ?」と、ものすごい気まずい気持ちにさせられた。そういうお店は居酒屋などで、わたし一人で入店したわけでは無かったから、対応は一緒に入った人に任せて、わたしはツメタク硬直して、一応言われたとおりに追従していた。

 そういうのも慣れなのかもしれないとは思うが、もう、わたしは人の中で食事することに拒絶感が根強く息づいてしまったので、無理かもしれない。部屋で一人、『自由な空気を吸いながらの食事』が一番わたしには似合っているのだろう。

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