チョコレートのその先

前回、遠い昔わたしが中学生時代のバレンタインデーの話を書いた。

当時、男がモテる条件と言えばやはりスポーツのスターだった。あるいは、音楽のバンドを組んでいたり吹奏楽部に在籍したりしている生徒がモテていたと記憶している。

体育祭や文化祭でリレーや講堂での演奏など、颯爽とグラウンドを駆け抜ける男性に黄色い声援が飛び、ギターをかき鳴らす彼に女子生徒は羨望のまなざしを送っていたものだ。


何かしらの能力に秀でている人が魅力的に見えるのは今でも変わらないだろうか。

そういう能力は、男のわたしから見ても、すごいなぁと憧れる面を持っている。


学校のチームの主力選手で、おまけにイケメンと来ればモテないはずは無い。そういう男子はバレンタインデーには本当に漫画の主人公みたいな数のチョコレートをもらったりしていた。


大人の男だと、ほうぼうの女性からその気を示されたら浮気心が働いて二股、三股など遊ぶヤツもいるだろうけれど、中学生だとここで、そんな不純な打算が働かない男子もいた。

中学生くらいだと、恋愛に純粋さを求めるのだ。あるいは、自身の高潔さを自負しようとする態度と言うべきか。自分は恋愛になど興味ない!という主張をする男もいた。


ある運動部のスターだった男が、交際し始めた彼女に『迫られて』、あんな女だとは思わなかったと言って彼女を振ってしまったのも見たことがある。

今にして思うと、意固地な滑稽ささえ感じるが、この思春期の男子は自分の清廉潔白を相手の女性にも求め、何かしら段階を踏んで先へ進みたかったのだろう。


逆のケースを見たこともある。交際し始めた女子にキスを迫って振られたと言う男子がいた。

彼は何か、心に火が付いてずっと「キスしよう」とばかり言っていたらしい。

雰囲気も何も無く、ただただそう言っていたのだとしたら、それは彼女の方に同情する。


昔の比較的おとなしい地域の中学生は、そんなことで毎日を一喜一憂して過ごしていたのだ。

そんな中学時代を通り過ぎて高校生になると一気に自分らが「カワイイ世間知らず」だったことを思い知らされた。

「ああ、世界には自分たちがいた中学校とは違う中学があったのか」

そんな感じである。

インターネットなど無かった時代だから、自分がいる周囲の世界の情報が全てだったのだ。それは、知らないと言うことが幸せだったのかもしれないとも思わされる。


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