003-転生したら勘違い悪役令嬢になっておりましたの!?~3
「下の者を思いやられるようになられたのですね」
少年執事はそう独り言ちた。
ミレーユのポーチ選びの片付けがようやく終わる。
一人で仕事をしていると口から声が出てしまう。
「まだまだ一人前の執事は遠いです」
執事はミレーユのことを考えていた。
セバスの主は弱者を虐げるような方ではない。
そのような方ではないが、ただ厳しく、偏りのない方なのだ。
貴族の子息とは、平民とは異なる。
それは生まれながらにして地位が固定されている点だ。
そのため、貴族というと地位に胡坐をかき、堕落している者をイメージする人も多いだろう。
ただ、その貴族が堕落しているかは外から見て判断できるものではない。
自身の地位を理解し、高貴なる者、青き尊き血を示すのが貴族の在り方である。
一見豪勢な性格をしているように見えても、民や外交相手へ威厳を示して統治を安定させ、
豪商たち資本家階級の情景をくすぐり、金銀を市井に流すことで経済を回している。
貴族と平民では在り方が異なるのです。
その中でお嬢様のあり方は異質でございました。
立場ではなく、一人の人間であることを意識して努力をし
令嬢としての研鑽だけでなく、学院の学問など優先度があまり高くないものにも満遍なく取り組んでいる。
ただ、やっかいなものは全ての人間が自分と同じだけ努力して当然であると思い込んでいること。
それが問題である。
執事として、僕はお嬢様を諌めなければならない。
ミレーユ様のひたむきな努力をする向上心があれば、社交など令嬢の主たる分野に専念されれば、
もっと評価されるに違いない。
伸びるはずなのに伸ばせていない。これは執事として、由々しき問題だ。
しかし、何事にも努力せずにはいられないミレーユ様の姿を僕が好ましく思っていること、
これこそが最大の問題なのかもしれません。
『暖かいですわ。ありがとう。セバス』
『そんな風に思われるほど、わたくしはあなたと目を合わせていなかったのですね』
主人の言葉が脳裏に響く。
「ただ、お嬢様は周りの者を見るようになられたのではないでしょうか」
真面目なお嬢様は、使用人や平民の領分はしっかりと理解なされ、貴族とその他との壁は理解できていらっしゃった。
他の者、特に学院生など同世代のご令息・ご令嬢方にはやや冷酷な子供に見えたかもしれませんが、
成人貴族とはかくあるもの。早熟といえる。
なにがあの方を変えたのかはわからない。
しかし、良い兆候のように思います。
「まずは殿下にお褒めいただくようなお嬢様のお召し物の準備をしなければ」
「ッ」
胸に針が刺さったような感覚がした。
疲れが出たのだろうか。
体調管理もできてないとはーー
「まだまだ一人前の執事は遠いです」
素直になれないわたくしもそろそろ年貢の納め時かもしれませんわ。執事!執事のセバスチャン!わたくしのことをデートに誘ってもよろしくってよ。 エリザベート @ynymfsk
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