希死念慮―――青空








―――翁は『モンスター娘のお医者さん』というのを観ていた。―――


―――と、同時にあとどれくらい生きられるのか…年金生活の身にもなった、戸張翁は達成と寂寞、どちらも痛覚を同時に刺激されるかのように感じていた。『医者もの』というアニメーション作品を観てる関係上、年齢的に過去を振り返りがちになるのは当然のべしかもしれない…。―――実は最近、翁は調子が悪かった。…眠れないのだ。『医者もの』を観ていると、この前、診察に行った時の、かかりつけ医のあたふたとした口調が思い出される。戸張は閉口するしかなかった。〈そこで何の脈絡なしに翁はニヤニヤしだした…それは彼の癖だった。悪い時に限って顔が緩む…いつからかそうなっていた〉―――しかし元々ブログセラピィなどという改善策を提案してくるあたり…。

「私はあれを信用したのだ、後悔はない。しかし睡眠を楽しめない…況やアニメをや、だな」正直な気持ちを一人言葉にした。――――



―――つとめて気分を変えようと今度は『お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ』…という「妹もの」に手を出した。しかし容易に翁の―――メランコリアに堕ちている翁の機嫌は変わらなかった。

画面の中の妹は、兄に対して必死に自分をアプローチしている。……が、翁はザッピングするように雑に視聴しながら、アニメ作品にもたまにあるストーリー上の矛盾を発見していた。

それは主人公を一同がシスコンであると太鼓判を押したにもかかわらず、そのいくつか後の話数で、普通の兄的立場という関係に一時的に?戻す、変更する、改善改悪する、などの表現が当てはなりそうな展開に置き換えているという矛盾だった。

というのも、この『おにあい』を観るのは今日に限った事ではない……即ちこれが―――何度目かは厳密に知らない―――が、当たり前に数周目と表せるほどの回数は観賞していたために改めて、その辺りを注視したのである。――――



――――戸張は、ある瞬間ふと、眼前のモニタを忘れて『東京喰種シリーズ』第一期のOPテーマ「unravel」をフラッシュバックするかのように思い出した。その内容は極端に考えれば翁の人生のカリカチュアかもしれなかった……。就中彼のえぐられたのが「教えて 僕の中に誰がいるの?」という最後の方の絶妙な声色で唄われているその詩だった。

そして再び彼は思い出す―――薬と決別するかどうか思案していた数か月の間にたまっていった多くのそれを。――――



――――希死念慮!――――




―――心がそうなるが早いか戸張は慣れない手つきでスマホを操作し、料理教室へ行っている妻へ別れの言葉を送信した。ハタから観たら、それは何か些事を頼んだ、とでも言いたくなる程度の動作だった。

次に、納戸から薬を引っ張り出した。(これじゃない、これでもない、あった、この袋に入っている××に○○を合わせればいい。)〈薬の名前は書く気はない…著者もこういう常識は大事にするものの一人である〉

彼はPCをシャットダウンし、キッチンへ水を――ミネラルウォーターを取りに行った。

胃がんの手術からもう何年か―――いちおうは、しばらくたった。胃は確実に色々な食事を日が変わっていくごとに多く含めるようになっている。―――それは死へいざなう薬でも同じことである。――――



――――戸張は一気に薬を水で胃袋に流し込んだ……――――兎にも角にも、それが事実となった。

そして約10分を過ぎて徐々に身体の感覚が変更されるのを発見しだした。

勿論、過去には向精神薬の常連だっばかりに、この変化は既に知っているものに違いない。

もういっときすると翁は前後不覚になり、その場〈自室のベッドのわき〉に倒れ込んだ。――――しかし場所が気に入らず必死にベッドにのぼろうとするが、最早無理だった。――――起き上がる事さえもかなわないのだから。……。オーバードーズらしいオーバードーズは今回が初めてなので、これは未経験であった。朦朧とする頭で(ベッドの上で全部を飲めばよかった)と、思考をたゆたわせていた。―――いつしか彼は眠りについた――


――そこへ「あなた!!」……汗がびっしょりで、それは、シティ・サイクルを体力の限界以上で漕いできたことを証明していた。――――

あたりを見まわした翁の妻は、ただ普通に寝ているだけかのような旦那を発見し、一瞬安堵したが、まわりに散らばった色々を視界に入れると、ハッと青ざめ、スマートフォンを取り出し救急に電話をかけた。――――「松が谷の!はい、入谷南公園の隣にある、詳しい住所は……!」――――



――――もうその後の消息は描写しまい。――――――




――――ただやはり少し書いておくと翁は胃洗浄の効果のある時間に間に合ったという事。後遺症は今のところ無し。現在は念のため都内の誰でも知ってる大学病院で安静にしている。―――と、言っておいてなんだが希死念慮が完全になくなったと判断されたら、すぐに帰してくれるという。――――見舞いは、妻が毎日。事情が事情なので、このことは親戚には伝えていない。入院のための保証人になってくれた妹を除いて。



―――――カルマの開放とダルマ――――




――――戸張翁は、またあの御徒町のクリニックへ行くかどうか、ブログセラピィは、さておきアニメ視聴は続けるか―――ぼんやり入道雲を眺めながら考えていた――――(いつになったら、普通に熟睡できることやら・・・)――――












〈作者の陳弁:架空ヴィジュアルは、おそらく終わりました。けれど、まだ続くかもしれません。ゆえになにも言う事がありません。ただ始まりが、目指せ「アニメ感想文」だったために大きく方向がそれているのは、私自身なぜ?となっております。蛇足を足せば、こういう終幕を匂わせる結果の理由の一つは、自身のモチベーションの維持の問題に関わっています。〉















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架空ヴィジュアル 安達粒紫 @tatararara

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