【声劇台本】恋愛実況中継・Ⅱ

茶屋

【声劇台本】恋愛実況中継・Ⅱ

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■登場人物

  実況(♂):漕代 実  [こいしろ みのる] 実況アナ。独身。メイン。

  解説(♂):海瀬 強  [うみせ  つよし] 落ち着いた解説者。妻あり。

  男 (♂):大代 健児 [おおしろ けんじ] 普通の男性。婚約中。

  女 (♀):上村 詩帆 [うえむら しほ ] 普通の女性。婚約中。


■配役(3:1:0) 所要時間:約20分

  実況(♂)(L43):

  解説(♂)(L35):

  男 (♂)(L44):

  女 (♀)(L41):


  ※L**:セリフ数

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 男 :「わりぃわりぃ。」


 女 :「んもぅ。遅い!」


 実況:「さぁ、始まりました。本日のメインイベント。

     エンゲージメント級の男女の試合が始まりました。

     実況は私、漕代。解説は、海瀬さんでお送りいたします。

     海瀬さん、よろしくお願いします。」


 解説:「よろしくお願いします。」


 実況:「試合開始早々、両者の間に緊迫した空気が張り詰めています。」


 男 :「ちょっと電車がさぁ。」


 女 :「定刻通りに運行していたハズだけど?」


 男 :「・・・お前は駅員かよ。」


 女 :「で、何やってたの?」


 男 :「ちょっと、寝坊しちゃってさ。」


 女 :「ずっと前から約束してたでしょう? なんでそうなる訳?」


 男 :「いや。だから、悪いって・・・。」


 女 :「嘘。顔が全然反省してない」


 男 :「なんだよ、機嫌悪いなぁ・・・。何かあったのか?」


 女 :「別に。」


 実況:「開幕直後、精神的コーナーへ一気に追い詰めましたが・・・

     ここで一旦距離をおいたのは上村選手の方だ。」


 解説:「少し様子がおかしいですね。」


 実況:「その上村選手ですが・・・情報によりますと、

     ここのところ夜な夜な携帯電話で彼氏のことを友人に相談を

     していたようです。」


 解説:「私の情報によりますと、付き合い始めて2年10ヶ月の月日が経っており

     今はもちろん婚約もして、2ヵ月後の9月に結婚式を予定しているようです。

     しかし、最近になって二人の距離が遠くなったと感じる上村選手が

     日々不安を募らせているとのことでした。」


 実況:「ありがとうございます。一方の挑戦者は、

     先月から仕事が忙しいと頻繁に言うようになり。

     折角の週末も一緒に過ごす時間を持たず。もっぱら仕事人間と化している

     ようです。まぁ、結婚には資金が必要ですからね。その為に、頑張ってる

     のではないでしょうか?」


 解説:「そうですね。お金かかりますからね。

     漕代(こいしろ)さんは、その辺はどうなんですか?」


 実況:「・・・さぁ! 二人の会話が再び始まりました。」



 男 :「遅刻したのは悪かったよ。」


 女 :「それだけじゃないけど。」


 男 :「なんだよ? 他に何かあったっけ?」


 女 :「・・・昨日さ、メールしたよね? 今日のこと。」


 男 :「あー・・・・。」


 女 :「はぁ? 覚えてないの?」


 男 :「あーあー。着てた着てた。そうだ。」


 女 :「メール見た?」


 男 :「メールって言えばさ、俺も送ったじゃん?

     ほら、今日行くレストランの。」


 女 :「うん。それは見たけど。私のメールは見みたの?

     って訊いてるんだけど。」


 男 :「だからメールは見たよ。で、そのレストランだけどさ。

     結構、今は芸能人の中で流行ってるらしいよ!」


 実況:「次々と繰り出される上村選手の追及を交わす!交わす!

     そしてまた、交わす~!なんというフットワーク!

     上手い具合にかき回す、華麗なステップを見せます!」


 解説:「絶妙ですね! 滑らかにタッチして、それとなく会話の軌道を変えていま

     すよ。この二人は付き合いも長いですからね、相手の癖を知り尽くしてい

     るのではないでしょうか?」


 女 :「・・・あ、そう。ふーん、芸能人ねー。」


 男 :「先月に行った時も・・・ホラ。誰だっけアレ、女優の・・・。」


 女 :「は? 今、なんて言ったの?」


 男 :「ん? 女優・・・・・・。」


 女 :「その前なんだけど。」


 男 :「先月に行った。・・・・あ。」


 実況:「おぉっと~!? ここでスリップぅ~!

     この試合は、レフェリー不在で行われています。

     その為に判定は選手の二人に委ねられます!」


 解説:「さぁ、どう判定を下すんでしょうかね?」


 女 :「アンタ、今なんて言った?」

 

 男 :「え? い、今・・・?」


 女 :「ここの所、忙しいから遊んでる暇無いって言ってたはずだよね?」

 

 男 :「あ、ああ。言ってたよ。」


 女 :「なのに、今。私とそのレストランに行った?」

 

 男 :「えー? あれ、言って無いだよ。」


 女 :「”無いだよ”って何。言葉遣い可笑しくない? 何か隠してるの?」


 男 :「うっせーなぁ・・隠してねーし! 言ってねーし!」


 女 :「言ったじゃん!!」

 

 男 :「いやいやいや。俺、そんなこと言ってねーから!」


 実況:「挑戦者。スリップを認めませんね。」


 解説:「そうですね。今のは、挑戦者にとって命取りになる場面でしたから・・・

     そう簡単に認める訳にはいかないでしょう。」


 実況:「実況席から見ても、明らかに”口を滑らせた”のが確認できました。

     しかし、頑なに否定する挑戦者。

     態度が変わらないことを悟ってか、上村選手の追求が止まりました。」


 解説:「これ以上は、無駄だと判断したようですね。良い判断です。」


 実況:「その上村選手、拳をぎゅっと固めています。

     一見、力を溜めている様にも見えますが。」


 解説:「そうですね。次のラウンドに注目しましょう。」


 実況:「ここでインターバルを挟みます。

     互いに沈黙を守りつつ、息と脳を整えているようです。」


 男 :「あ!」


 実況:「なんと、ここで挑戦者の携帯が鳴った!

     この着メロを合図に第2ラウンドが開始されます!」


 女 :「出れば?」


 実況:「おっとぉ。いきなり重いパンチが挑戦者のボディーにめり込みました。」

  

 解説:「・・・かなり効いたと思いますよ、コレは。」


 男 :「え、いや。会社から・・・だからさ。」


 女 :「だったら尚更。出ればいいじゃない。」


 男 :「いやぁ・・・ほら、折角のデートなんだし。邪魔されたくないだろ?」


 女 :「ありがとう。でも、仕事を大事にしてるじゃない? 私より。」


 男 :「そんなことないだろぉ?」


 女 :「そうだっけ?先月も仕事で忙しいとか言ってさ。

     週末だって仕事仕事って。」


 男 :「あ。切れた。・・・もう大丈夫。」


 実況:「第1ラウンドで見せた挑戦者の軽快だったフットワークも

     ・・・ここにきて失速してきた感があります。」


 解説:「前のラウンドから、

     結構パンチの効いたイイのを貰ってますからね・・・。」


 実況:「さらに挑戦者、どうやら胃の辺りをしきりに気にしているようですが?」


 解説:「2ラウンド開始に重い一発を貰いましたからね。

     内臓がキリキリと痛むんでしょう。スタミナが奪われて後半戦厳しくなる

     かもしれませんよ。」


 実況:「挑戦者、相手に見えない角度で携帯電話を構えたまま

     重い心を引きずりながら相手との距離を徐々に広げていきます。」


 解説:「ですが、上村選手の反応が早い!」


 女 :「ちょっと! なに電源切ろうとしてんの? 

     別に切らなくたっていいでしょ?」


 男 :「だって、また掛かってきたら邪魔臭いだろ?」


 女 :「だから、出ればいいじゃない。」


 男 :「なんだよ。しつこいなぁ・・・。出なくていいって言ってるじゃん。」


 女 :「出なくていいじゃなくて、出るとヤバイ・・・の間違いじゃないの?」


 男 :「別にヤバクないよ!」(強気)


 女 :「へー。なんか、最近さー。私の前で電話取らなくなったよね?」


 男 :「そんなことないよ!」(強気)


 実況:「挑戦者、一瞬にして精神的コーナーに再び追い詰められてしまったぁ!

     ピンポイントで打ち込まれる上村選手の攻撃をガードしながら打ち返しま

     す!」


 解説:「しかし、挑戦者は自分の意思ではなく、

     相手に”打たされている”という事に気付いていないですね。」


 女 :「そうかなぁ。部屋の中でトイレに行く時、

     携帯持って行くのオカシくない?」


 男 :「おかしくないよ。俺、長ぇーだろ? だからだよ!」(強気)


 女 :「本当かなぁ?」


 男 :「本当だよ! なんで信じないんだよ!」(強気)


 女 :「じゃあ、次掛かってきたら出られる?」


 男 :「出られるよ!!」(強気)


 実況:「気持ちマウントポジションから振り下ろす攻撃を確実に、

     そして強めに繰り出していた挑戦者でしたが・・・?」


 解説:「ええ、ですが最後の一撃は完全に誘い込まれた一発ですよ。

     恐らく、その前の攻防もこの最後の攻撃のための布石ですね。」


 実況:「振り下ろした挑戦者の攻撃がガッチリと掴まれ、

     心の動きを封じられてしまったぁ!」


 解説:「いやー見事な流れ技ですね! 誘って、打たせて、取る!!

     これ程までに華麗に極められる選手は中々居ませんよ!

     ガッ、ガッ、ガッって感じで、ガッって」(興奮)


 実況:「先程まで強気だった挑戦者でしたが、

     徐々に締め技が効いてきたのでしょうか・・・

     顔色が悪くなってきました。

     しかし、硬直状態は今も尚、継続中です。

     海瀬さん。先ほどの一連の流れですが・・・。

     挑戦者の彼は、何故アレほどまでに容易く要求を呑んだのでしょうか?」


 解説:「明解なことは言えませんが、恐らくは複合技を用い、

     更に応用したものでしょう。」


 実況:「複合技を応用ですか?」


 解説:「一つは、『メンタルセット』。

     そしてもう一つは、『OTM(オーティーエム)』です。」


 実況:「またですか。で、今度は『OTM』?」


 解説:「ご存じない方の為に少し説明しますと。

     メンタルセットとは、”心の構え”を意味しています。

     イエス誘導法と言うものもありますが。

     『イエスのメンタルセット』を相手の心に作らせてしまう技です。

     本題に至るまで、相手がイエスと答えるような会話を幾つか行い。

     相手がイエスと答えやすいメンタルセットを作るということです。

     そして、最後に通常であればノーといわれるであろうことも、

     イエスと言わせてしまうものです。」


 実況:「…なるほどぉ。

     正直、そんなことが日常で行われてると考えると…怖いですね。」


 解説:「実際、今回使われた技はイエスのメンタルセットとは

     少々異なる形ですが、

     否定的なメンタルセットを挑戦者に植え付けていますね。

     そして、否定することに馴れ始めた挑戦者はだんだんと不安な心を隠そう

     とする余り、口調が強くなり、

     そして相手より優位に立とうと焦りました。」

 

 実況:「で、OTMというのは?」


 解説:「OTMとは、『Otokoha Tamesare Moving』(男は試されムービング)の

     頭文字を取ったもので。”男は試されると動く”というものです。」


 実況:「ほぅ。試されると動く・・・ですか?

     具体的にはどういったことなんでしょうか?」

 

 解説:「例えば、普段アザラシのように横になってばかりいる亭主に、

     電球の差し替えをしてもらいたい。

     そんな時に・・・”電球替えて!”というのは効果がありません。

     悪い場合は、”んだよ。ったくぅ・・・”などと

     文句と大きなため息を吐かれることでしょう。

     ここで技を使う場合、”電球替えれる?”といった、

     男の力量を試すような表現で言うと、

     思いのほか愚痴も無く動いてくれるという技です。」


 実況:「おおおー。それは素晴らしい!

     ・・・ですが。男としては、複雑な気分です。」


 解説:「余程ヒドい頼みごとでなければ、好きな相手の為と思い、

     聞き入れてあげましょう。

     で、解説に戻りますが。それらの二つの技を彼女なりに改良して、

     最後には挑戦者に電話を取らせるということを約束させたわけです。」


 実況:「おっと! 丁度ここで、挑戦者の携帯が再び鳴り始めました!」


 女 :「ほら、出てよ。」


 男 :「わ、わかったよ・・・。あ。なんだ、メールだ。はは。」


 女 :「ふーん。」


 男 :「なぁ、もういいだろ? 早くレストラン行こうぜ!

     予約してあるんだし、遅れちゃうぜ。」


 女 :「誰からのメール?」


 男 :「え? 別に誰からでも良いだろ?」


 解説:「上村選手、攻め手を休めませんね。」


 実況:「なんとかここは乗り切って次のラウンドへ進みたい挑戦者!」


 女 :「あれ? さっき掛けてきた会社の人じゃないんだ?」


 男 :「え? いや・・・。友達だよ。」


 女 :「男? それとも、女?」


 実況:「これはいけません!

     挑戦者、精神的コーナーから抜け出すことが出来ない!」


 解説:「危ないですよ・・・これは。」


 実況:「上村選手、心の構えを崩さずに・・・

     ゆっくり、ゆっくりと距離を縮めていきます!」


 女 :「なんでも無いなら、見せてくれても良いよね!? 携帯。」


 男 :「えぇ・・・いや、本当は上司からなんだよ・・・。」(怯え)


 実況:「ゆっくりと差し出された色白の手!

     そして、ゆっくりと開かれた手のひら!!

     かつて、これ程までに穏やかで

     攻撃的な手のひらを見たことがありません!」


 男 :「い、いや。そうだけど。でもさ・・・」


 女 :「私が何も知らないと思ってんの!?」


 男 :「え!?」


 実況:「おおっと! 一瞬ひるんだ挑戦者の手から携帯電話を奪い取ったー!!」


 解説:「今のは、フェイクですね。強烈なパンチがあると見せかけて、

     相手のガードを揺さぶり、その隙を狙われましたね。」


 女 :「『昨日は楽しかった♪ また来週も遊び行こうね(ノ´∀`*) 

      今度は、二人っきりで温泉行きたいなぁ。

      それじゃあ、また連絡するね。ケンちゃん ヾ(*´∀`*)ノ』

     …これ、上司? ずいぶん可愛らしい上司ね。で、温泉行くわけ?」


 男 :「・・・あ・・・いや。あの・・・」

 

 実況:「これは挑戦者の力量では・・・厳しい相手だったのでしょうか?」


 解説:「シックスセンスも駆け引きも、

     上村選手の方が上回っていたということです。

     しかし、何よりも挑戦者の愛の力不足が招いた結果と言えるでしょう。」


 女 :「最低っ!」


   (女、男にビンタする)


 男 :「イタっ!?」


 実況:「ここで、電光石火のリアルビンタが飛び出したー!」


 解説:「早すぎて、まったく見えませんでした。」


 男 :「・・・・ごめん。悪かった。」


 実況:「ああっとぉー!! ここで挑戦者、

     白タオルならぬ白旗を投げ入れたぁー! ここで試合終了ぉ~!!」

     

 解説:「終始一方的な試合展開でしたね。

     ですが、まぁ・・・自業自得というところでしょう。」

 

 実況:「試合は残念ながらレストラン・ラウンドを残したまま、

     上村選手の勝利・・・というよりは、

     挑戦者の心の敗北で幕を下ろすことになりましたが。」


 解説:「ええ、残念ですねー。ですが、

     この階級は実に重要な位置にありますから、これまでも様々な…」


 男 :「・・・お、おい。詩帆(しほ)?」

     

 女 :「っんん!」(怒)


 実況:「おや? 上村選手の様子がおかしいですよ?」


 解説:「手元で何かしているようですね?」


 女 :「サヨナラっ!」


 男 :「イテッ!?」


   (女が、婚約指輪を男に投げつける)


 実況:「な、な、なんとぉ!?!

     ここで、まさかのエンゲージリングの返上ぉーです!!」


 解説:「いやぁ・・・これは大変なことになりましたよ!」


 実況:「これにより、上村選手は事実上・・・

     エンゲージメント級を脱することとなります!」


 解説:「あー、そうですかー。そうなりましたかぁ・・・。」


 実況:「テクニカルな攻撃とセンスで

     素晴らしい試合展開を見せてくれた上村選手でしたが。」


 解説:「またこの舞台に帰って来ると信じて待ちましょう!」


 実況:「そうですね。では、海瀬さん。

     試合をご覧になった感想を一言お願いします。」


 解説:「私は、妻一筋です。未来子(みきこ)、愛してるよ。」


 実況:「はい。ありがとうございました。

     それでは、又、お愛しましょう。さようなら。」

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