第242話 タヌァカの帰還
(えっ? ごめんココロチン、もう一回言ってもらってもいいかな? 良く聞こえなかった)
(ココロ:はい。拠点間転移に3200万EONポイント必要になります)
(えっと……3200ポイント?)
(シリル:「万」が抜けてますね)
拠点間転移……前世なら豪華客船で地球一周クルーズに出られるくらいのお値段だった。
(ココロ:別にボッたくりじゃありませんからね。天上界の公式価格設定です)
(えっと、まさか一人3200万とか?)
(ココロ:いえ、お一人様800万ポイントですよ)
よかった……。
最初に出された数字が大きかったので、なんだかホッとしてしまった。
いや、高いけどな!
(シリル:ではお止めになられますか?)
(い、いや……もちろん利用するよ)
た、たかが3200万ポイント! 今の俺からしたらはした金……ではないけれど、出せないポイントじゃない。
俺はライラを抱き上げ、ホドリスとミカエラにも近くに集まってもらった。
「それじゃ、グレイベア村の地下ダンジョンに行くよ!」
(じゃ、ココロチン、シリル、転送お願い!)
(ココロ:了解しました。ご利用ありがとうございます。間もなく当拠点は……)
ココロチンがアナウンスのまねごとを始める。
(シリル:転送10秒前。9、8、7……ハイ終了)
何のエフェクトも効果音もなく。
一瞬、瞬きした後、俺たちはグレイベア村の地下ダンジョン第十五階層にいた。
(いやいや! 何これ! 光の粒子とかボワワワーンって音がするとか、何か演出ないの?)
(ココロ:そう言われましても、転移ってこういうものですよ?)
(こっちは3200万ポイント出してるんだよ! なんか機内食くらい出しても良いだろ!)
(シリル:今度のネットスーパーでお買い物の際、トイレットペーパー10円引きクーポン券を入れておきますから、落ち着いてください)
理不尽さを感じつつも、とりあえず俺たちは今、見知っている場所に立っていた。
「「なっ!? ここは!? 地下十五階!?」」
ホドリスとミカエラも、あまりにも急激な変化に驚いてた。
だが、それ以上に驚いていたのが……
「こ、皇帝陛下!?」
「タヌァカ殿!?」
青銅のゴーレムこと青さんと、グリフィンのグリッちだった。
「やぁ、二人ともただいま!」
「「お、おかえりなさいませ!」」
グリッちが、巨大な羽をバタつかせて、俺の前に詰め寄って来た。
「皇帝陛下、ライラ皇后陛下、ご無事でなによりです! あの、その、まずは……皆に知らせても?」
俺が頷くと、グリッちは「コケーッ!」と一声挙げて、羽をそこら中に巻き散らしながら、上階へと駆け上がっていった。
グリッち、お前、そんな鳴き方しないだろという、俺のツッコミは完全に置き去りにされてしまった。
「ま、まずはお疲れのことと存じますので、と、とりあえずお部屋へどうぞ」
「ありがとう青さん、ライラがちょっとおねむな感じなんで、寝かせてあげたいんだけど」
「いつ御戻りになられても大丈夫なのように、ベッドも整えておりますよ。さぁ、お部屋へ……」
青さんの云う通り、俺たちの部屋は変わりなく綺麗に掃除されていた。
俺はベッドにライラを寝かせると、その傍に腰かける。
「青さん、ホドリスとミカエラも疲れてると思うから、休ませてあげてくれる? なんなら温泉にでも入れてあげて」
「承知しました」
青さんが去った後、俺はライラの寝顔を見つめた。
目に掛っている前髪を払って、彼女の右目の傷跡を優しく撫でる。
この部屋でライラの寝顔を見ながら、いつもこうしていた。
ようやく、いつもの日常が帰って来たような気がする。
~ 再会 ~
ライラを寝かしつけてから間もなく、廊下の先から大勢の足音がドタバタと近づいてくるのが聞こえて来た。
足音は俺とライラの部屋の前で止まり、そして、
バンッ!
と音を立ててドアが開かれた。
大勢の懐かしい顔が、なだれ込むように部屋に入って来る。ルカやグレイちゃん、ステファンやフワデラ夫妻と子供たち、イリアくんやロコ、トルネア、さらに驚いたことに古大陸に行っているはずのマーカスとヴィルの姿まであった!
みんなの視線を受けた俺は、急に照れくさくなって、思わず顔を逸らしてしまう。声も思ったより出せなくて、俺はボソっと呟くことしかできなかった。
「みんな……ただいま……」
その瞬間、その場が大きな歓喜に包まれた。
「シンイチ! よかった! 生きておったのじゃな!」
「坊主! 一人前の顔になってるじゃねーか! クソッ! イイ男になりやがってよ!」
「シンイチくん! シンイチくんだぁぁ! うわぁぁぁぁん!」
「シンイチ! モドッタ! ウレシイ! トテモオオキクウレシイ!」
「あぁ、ライラ様……幼女のライラ様マジ天使です!」
みんなが俺に抱きついてくる。
ライラが目を覚ましてしまったけど、問題ない。
俺もライラも嬉しくて、嬉しくて、涙が溢れて止まらなかったから。
ふと視線の端で、部屋から出ていく幼女の姿が見えた。
チラッと見ただけだったが、幼女にしてはピンと背筋が伸びた姿勢と、その幼女らしからぬ雰囲気から、きっとあの子が例の魔法使いなんだろうなと思った。
まぁ、後でじっくり話をする機会があるだろう。
とりあえずは、今現在、俺に伸し掛かってくる重圧に対処しなきゃならない。
「ちょっ! ルカちゃん! 鼻ベロベロは止めて! 息できない! 息できないから!」
「何言っておる! シンイチはこうされるのが好きなんじゃろが! レロレロレロレロ!」
「ちょっ! グレイちゃん、足齧らないで! ズボン履き替えたばかりなのに、ヨダレ! ヨダレで濡れてるから!」
「うーっ! シンイチとライラ帰って来たうー! じゅるじゅる、うーっ!」
「はわわわわ! 幼女ライラ様、わたしもレロレロして良いですか? 良いですわね! レーロレロレロレロ!」
「ちょ、お姉ちゃんやめて! くすぐったいから!」
俺に纏わりつくルカやグレイちゃんの後ろから、
マーカスが俺の頭をぐしゃぐしゃに掻き回し、
ヴィルが背中をバンバンと叩き、
ステファンが足元に膝を屈して男泣きし、
ロコが謎の創作コボルトダンスを舞い、
イリアくんが俺の腕を取って、手の甲に何度もキスをし、
フワデラ夫妻が優しい目で俺たちの様子を見守り、
長女の小鉢が俺の手を取って小指を握ろうとしてきたので、思わず手を引き、
次女と三女が俺の足に縋りついて来たので、頭を撫でてやり、
ラミアーズ女子たちが、入れ替わり立ち代わり、挨拶に来るので挨拶を返し、
飛ぶような勢いで部屋に入って来たミリアとフォーシアに、俺は今のところ唯一動かせる親指を立てて再会を祝福し、
俺とライラの無事を確かめたい住人たちの行列が出来たので、一人ひとり順番に挨拶し、
ようやく解放されたときには、俺とライラはボロボロになってベッドに倒れ込んでいた。
「二人とも長旅で疲れておるのじゃ。しばらく、そっとしておいてやろう」
というルカの言葉に、今さら何言ってんの! とツッコミを入れる気力もなく、
ライラと顔を会わせるようにベッドの上で横になると、
身体中の力が抜けていくのを感じた。
急に血の巡りが良くなって、手足の指の先の先にまで血がブワッと流れていくのを感じる。
自分が気付かないうちにずーっと緊張状態にあったことを、今さらながらに知った。
心地よい眠気が襲ってくる。
帰ってきた。
安心して眠れる場所に、
家族と仲間のいる場所に、
俺とライラはようやく帰って来た。
俺はライラの寝顔を見つめながら、
そのまま深い眠りに落ちていった。
~ 第一幕 完 ~
★
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とりあえず、シンイチとライラの物語はここで一端完結です。まだまだ先は長いのですが、他の物語も進めなければならないので、ここで休憩させていただきます。
時系列での流れとしては、護衛艦フワデラの物語「第70話 タヌァカの帰還」に続きますので、こちらでシンイチとライラの活躍の続きをチラチラッと見ることができます。
ミサイル護衛艦ごと異世界転移!? しかも幼女になった艦長がやりたい放題です!
第70話 タヌァカの帰還
https://kakuyomu.jp/works/16816927862346660239/episodes/16817330653953157924
登場人物に関連する物語もよろしければご覧ください。
異世界転生ハーレムプラン ~ 最強のスキルが【幼女化】ってマジですか?~
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