第233話 港湾都市ローエン
結局、ドラン大平原の戦場を出発してから、二カ月掛かってようやく港湾都市ローエンに到着した。
途中、戦争難民を攫っていた奴隷商人を幼女にしたり、毎度おなじみの賊に遭遇して返り討ち幼女にしたり、セイジュウ神聖帝国軍の部隊を幼女にしたり、女神クエストで妖異を幼女にしたり、とにかく幼女にしていたら、思っていた以上に時間を取られてしまったのだ。
さらに、そうしたやっかいな連中を幼女にし続けた結果、そいつら囚われていた人たちも解放し続けていった。そうした人々のうち、戻る場所がない者や、ローエンまで同行させて欲しいといった者たちを受け入れていった結果……
「……にじゅうさん、にじゅうよん、えーっと、これで全員かな?」
港湾都市ローエンに到着したとき、旅の一行は、俺を含めて総勢24人の大所帯になっていた。
「どうしようこれ……」
都市の入り口で中に入る許可を待ちながら、俺はライラにつぶやいた。
「アルミン夫人が、きちんと必要な手配をしてくださるとおっしゃっていました。信じて待ちましょう」
俺たちの受け入れと通行手続きのため、アルミン一家が先に都市へ入っていった。今頃はアルミン夫人の実家で、色々と手続きを進めてくれているはずだ。
ただ半日以上も待たされているのは、ちょっと不安を感じざる得ない。
俺たち一行は、ローエンを目の前にしながら、とうとう野営を張ることになった。
ネットスーパーで注文した、おにぎりやパン、飲料を皆に配る。
十分な量を用意したつもりだったが、瞬く間に全て食べ尽くしてしまった。特に食べ盛りの子供や少年少女は、まだ物足りなさそうな顔をしていたので、俺はココロとシリルに頭を下げて、もう一度、買い物に走ってもらう。
大人たちには、酒やおつまみを追加しておいた。
ひとりの男の子が、目をキラキラさせて俺に近づいてくる。
「ねぇねぇ、魔法使い様! 魔法使い様の国に行けば、毎日こんなおいしいものを食べられるの? だったら俺も魔法使い様の国に行きたい! オレ一生懸命働くからさ、連れてってよ!」
この子は、神聖帝国軍によって村を焼かれ、ただ一人生き残っていたところを、奴隷商に連れ去られていた。元より俺は、もしこの男の子の受け入れ先が見つからなければ、グレイベア村に連れ帰るつもりだった。
「俺たちは沢山の魔族と一緒に暮らしているんだ。それでもいいのかよく考えて、それでも一緒に来たいというなら構わないよ」
そう言って、俺は男の子の頭を撫でた。
「ま、魔族って……オレのこと食べたりする?」
「食べたりする人はいませんよ。みなさん良い人たちばかりです。ねっ! シンイチさま!」
俺としてはナマハゲ精神で「悪い子は食べられるかもね」くらい言おうかと考えていたのだが、ライラが先に答えてしまった。
「それなら! やっぱりオレは魔法使い様の国に行きたい!」
「私も! 行きたい!」
「ぼくも連れて行ってください」
「あたし! あたしも!」
子供たちから一斉に声が上がる。
「旦那、もし仕事を戴けるなら、自分も旦那のところで働かせていただきてぇです」
「私も裁縫だったら得意だよ。魔法使い様のところで使ってもらえないかね?」
こうして、ほとんどの子供と大人たちが、俺たちと一緒に行きたいと言い出した。
俺は曖昧に頷きながら、頭の中でミリアの渋い表情を思い浮かべていた。
~ スノフリド商会 ~
翌朝、エドワードとエリザベスが俺たちの滞在許可証を携えて戻って来た。
「遅くなってすみません。色々とトラブルがありまして……」
エドワードが申し訳なさそうに言う。
「何かあったの?」
「えぇ。幼女となってしまった母上を、お婆様が自分の娘だと認めるまでにひと騒動。それからどうして自分の娘が幼女になったのか、お婆様が納得するまでお話を聞かせるまでにひと騒動。魔法使いと戦災難民を連れて来たことでひと騒動。それから、そもそもどうしてそんなことになってしまったのか、最初から話せと言われて……本当に遅くなって申し訳ありませんでしたわ」
「お、おう……そうんなことが。色々と大変だったんだな、二人ともお疲れ様」
二人にとってのお婆様、アルミン夫人(幼女)の母が、マリー・スノフリド。港湾都市ローエン三大商会のひとつであるスノフリド商会の当主である。
今は亡き夫と共に、荷運びから初めて一代で大商会を築き上げたという、この地方では伝説の女性だそうだ。スノフリド商会の海運事業部門は、古大陸の商会と合同の形で大陸間の海運を担っているという。
数年に一度、港湾都市ローエンから古大陸に向う大船団を組んで交易を行なう一大事業があるが、その仕切りを行なっているのもスノフリド商会だ。
もしかすると、古大陸に渡ったマーカスやヴィルも、スノフリド商会の船に乗っていたのかもしれない。
つまり、大金持ちであり、政治力があり、たぶん裏世界でも力を持っているのであろう。
うむ。やはりエリザベスの裸体をじっくりと堪能した事実は、絶対にバレるわけにはいかないな。孫のあられもない姿を目に焼き付けたことが知られてしまっては、手足を縛られたままローエンの港に沈められてしまうかもしれん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます