第232話 幼女だけの街
念のためリトルミナスの街を一回りしてみたものの、他に人がいる気配は一切なかった。
俺の視界に移る【索敵】マップには沢山の緑マーカーが表示されているが、その全てが教会内部に集中していた。
おそらく星辰祭の儀式のために、街の全員が教会に集まっていたのだろう。
ただ一つ、黄色マーカーが街の入り口へと向かっていた。おそらく魚面の神官が街を出て行こうとしているのだろう。
「魔法使い様、これからどうしますか?」
宿に戻ると、アルミン夫人(幼女)が俺にそう尋ねてきた。
魚面の神官(幼女)の証言から、この街の連中が星の智慧派との関わりがあることが分かっている。
その繫がりを辿っていけば、いつかは悪魔勇者の居場所にたどり着けるかもしれない。
だが、それは俺とライラだけで出来ることではないし、これ以上、星の智慧派のアサシンに着け狙われるようなことは避けたい。
というわけで、
「さっさと撤収します」
というのが俺の結論だ。
それに対してエドワードは、この街の秘密を徹底的に暴いて、その後に街を燃やそうという主張した。
「山火事になったらどうすんの! 却下!」
エリザベスは、自分が石台に素っ裸で寝かされていた上、やもすると石台に魚面と交配させられそうになったことに対して、怒髪天を衝く勢いで怒っていた。
「山火事が何ですの! この街も山も全て燃えてしまえばいいのですわ!」
ちなみにアルミン夫人(幼女)も、エリザベスの主張に全面的に賛同している。
「火事怖い……駄目……」
エリザベスの裸体をじっくり凝視していたことを知られてしまったら、俺も燃やされてしまいそうだったので、エドワードの時よりも声のトーンが落ちてしまった。
色々とチェックしてしまったことは、この際、なんとしても絶対に墓場まで持っていこう。
俺はアルミン一家に星の智慧派のヤバさについて話し、この街に滞在する時間が増えるほど、彼らに見つかる可能性が高くなることを説明した。
まぁ、幼女になった魚面たちを見たら、俺の仕業だとバレるのは間違いないと考えておくべきだろう。だが、このまま立ち去れば、アルミン一家のことが星の智慧派に知られるようなことはないはずだ。
「しかし、先ほど逃げた神官は、私たちのことを知っているかもしれませんわ。神官が星の智慧派と接触してしまったら……」
「あっ!?」
俺は宿を飛び出て、【索敵】レーダーに映っている黄色マーカーのある方向を見る。
魚面神官(幼女)が、身体に不釣り合いな大きな荷物を背負って、街から出て行こうとしていた。
「【幼女化解除ビーム!】」
ポンッ!
俺が魚面神官(幼女)の背中にビームを当てると、魚面神官(幼女)は元の姿に戻った。
「【幼女化ビーム!】」
ボンッ!
という音と共に、白い煙が立ち上り、魚面神官(幼女)は幼女に戻った。
ヒクッ! ヒクッ!
そして、間もなく魚面神官(幼女)は動かなくなった。
まぁ、今度会ったら意識を消すと言ったから、嘘は吐いてない。
命まで消しちまったけどな。
悪いな。
星の智慧派は危険すぎるんだよ。
俺とライラだけでも手一杯なのに、アルミン一家まで巻き込むわけにはいかない。
「さぁ、出発しましょう」
俺はアルミン一家に声を掛けて、リトルミナスを後にした。
街を去るとき、俺は心の中で、先ほど奪った命と、おそらくこれから死んでいくだろう幼女たちに手を合わせた。
俺たちを生贄にしようとした街の住人は、正しく敵だった。
だが、さすがに幼女のまま死んでいく姿を思い浮かべると胸が痛い。
人は見た目が何割。
なんて言葉があるけど、その中身がどうであろうと、やはり幼女が倒れている姿を見るのは辛い。思うだけでも辛い。
だが、また一度同じ場面に遭遇したとしても、俺は同じことをするだろう。
俺にとってはライラの命が何よりも一番大事なんだ。
悪いな。
~ 再び街道 ~
元来た分かれ道へ戻り、そこから二日ほど進んだところで、ようやく俺たちは大峡谷を越えることができた。それから今度は海側に向って峡谷沿いに進み、北に向かう街道へと戻ることができたのは、十日後のことだった。
何故、そんなに日数を要したのか。
「なんだこのルートは! 山賊の百貨店か何かかよ!」
大声を上げた俺に、エドワードが同意する。
「1日1度は山賊に遭遇するというのは、戦時下で治安が悪いとはいえ、さすがに常軌を逸してますね」
山賊に遭遇した際、基本的に突っ掛かられることになる俺とエドワードは疲労困憊。
だがアルミン夫人(幼女)や他の女子たちは、とても機嫌が良かった。
「でも、そのおかげでこんなにお金が一杯ですわ!」
エリザベスが金貨の入った袋を見せてくれた。
山賊に出会った際には、ちゃんと全員を幼女にした上でアジトに案内してもらい、その命と引き換えにお金を戴いている。
正当な取引を続けた結果、俺たちは金貨で一杯の袋を手にしていた。
まぁ、俺にはネットスーパーやルカ資金があるのでお金には困っていない。でも、お金があるにこしたことはないからな。
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