第229話 エリザベスの裸体

 ダゴンを祀る怪しいカルトの街で、生贄の儀式に巻き込まれてしまった。


 まぁ、俺は最初からそうじゃないかと思ってたけどな!


 巨大なオコゼ頭のダゴン像の前で、アルミン一家とライラが生贄にされようとしている。


 ライラに手を出した時点で、こいつら全員エターナル幼女に決定だ。


 俺は素早くアルミン一家を【幼女化除外リスト】に登録する。ちなみにライラとヴォルちゃんは、既に登録済みだ。


「【幼女化ドゥゥゥム!】」(意識も幼女化。効果時間エターナル)

 

 ブワンッ!


 と、空気が揺れるような音がした。

 

 ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッボンッボボボボボボボボボボボボボボボッン!


 祭壇の間にいる、魚面たち全員が幼女と化した。


「ヴォルちゃん! ロープ焼き切って! あっ、身体は焼かないでね!」


 俺の足元に、ちっちゃいサンショウウオのような火の精霊ヴォルカノンが顕現する。

 

 ヴフォッ!


 俺の無茶振りな注文に、ヴォルちゃんは完璧に応えてくれた。


 俺は焼き切れたロープを振り解き、ライラの下へと駆け寄る。

 

 周囲は、幼女となった魚面たちで大混乱に陥っていた。こいつらの顔には魚面っぽさが色濃く残っており、手には水かきがある上、背中には背びれまであった。

 

 これなら人間の幼女と区別がつくな。


 俺は上着を脱いで、ぐっすりと眠っているライラをくるんで抱え上げる。


 それから眠っているアルミン一家を起こしに掛かった。


 まず手近にいたアルミン夫人の下に移動し、ヴォルちゃんに彼女を土台に拘束しているロープを焼き切ってもらう。


 パンッ! パンッ!


 いくら頬を叩いてもアルミン夫人は起きない。


 仕方ない。


「ヴォルちゃん、ここにお灸を据えてあげて!」


 そう言って、俺はアルミン夫人の右手の親指と人差し指の付け根辺りを指で示した。


 確かこの辺りには合谷というツボがあって、肩こりや眼精疲労、胃痛、生理痛に効果があるとかなんとか。


 うん。目覚ましには関係ないな。


 だが目的はそういういのじゃないから問題ない。


 ヴォルちゃんが、アルミン夫人の右手に針のような細い炎を吹き付ける。


 ジュッ!


「熱っぅうう!」


 アルミン夫人が飛び起きた。


「ハッ!? ここはどこかしら! って、どうして私は裸なの!?」


「俺たちは街の連中に騙されたんですよ! 全員、眠らされて生贄にされるところだったんです!」


「なっ、なんですって……」


 アルミン夫人は、周囲を見回して、異常な状況を徐々に理解しつつあった。


「あぁぁあ、私の子供たちが!? みんな裸に!」


「とりあえず、みんなを助けて、ここから出ましょう」


「そ、そうね。早く逃げましょう」


「時間が惜しいので、夫人と同じ方法で起こします! ヴォルちゃん! やっちゃって!」


 ヴォルちゃんが石台をつぎつぎに移動し、アルミン一家の合谷にお灸を据えていく。


「「痛!!」」※ローザとアリス

「熱っ! 貴様、何をする!」※エドワード


 ヴォルちゃんがシュッと姿を消した。


 ゴクリ……。


 残されたヴォルちゃんのお仕事は、エリザベスへのお灸だ。


 正直、アルミン夫人もいる手前、真っ裸のエリザベスに視線を向けるのは避けていた。


 ガン見なんて紳士のすることじゃない。


 なので視界の端に全神経を集中して、チラ見するに止めている。


 でもね。


 もしもね。


 エリザベスが悲鳴を挙げるようなことがあれば、ほら、彼女に異変があったら大変じゃん?


 だから、その瞬間だけは、視線を向けてもいいよね?


 いや。


 ほら。


 だって! お灸の悲鳴とは限らないじゃん!?


 何かあったら大変じゃん!?


 一瞬は彼女の安全を確認しないと!


 ねっ!?


「熱っ!」


 俺の首元から、悲鳴が聞こえた。


「シンイチさま……!? ヴォルちゃん……が起こしてくれたのね」


 ヴォルちゃんに起こされてライラが目を覚ました。


 ライラはすぐに今自分が置かれている状況を理解したようだった。そういえばライラは眠らされる直前に俺のことを呼んでたっけ。もしかすると魔術師の存在に気が付いていたのかもしれない。


 ジュッ!


「熱っ! 熱いですわっ!」


 突然、エリザベスの悲鳴が上がった。 


 待ちに待った瞬間が到来した!


 エリザベスが起き上がった瞬間!


 その年齢の割には大きめの胸が、はずむ瞬間!


 そんなスクープ映像を逃してなるものか!


 色々大変な状況だが、それでも!


 これだけは! これだけは見逃せない!


 意を決して俺はエリザベスの胸を見るために――


 違った……


 安全を確認するために視線を向けた。


 ガバッ!


「なっ!?」


 何も見えない!


 エリザベスの方を見ているはずの俺の視界は真っ暗だった!


「ラ、ライラ……さん?」


 ライラが俺の両目を手で塞いでいた。


「見ちゃ駄目!」


 そう必死に訴えかけるライラが超愛おしい。


 こうなっては仕方あるまい。非常に残念ではあるけれど、エリザベスパイは諦めるとしよう。


「だ、大丈夫、見てないよ」

 

 そう言ってライラを安心させた後、アルミン一家には俺の後ろに並んで貰った。


 ライラに手を放してもらった俺はアルミン一家を先導しつつ祭壇の間から脱出した。


 途中、アルミン夫人が――


「もし、エリザベスの裸体を見てしまっていたら、魔法使い様には責任を取っていただくところでしたわ」


 なんてことを言い出した。


「責任?」


「はい。責任をもってエリザベスを妻として迎えていただくか……あるいは、その両目を潰すところでしたわね」


 アルミン一家怖ぇ!


 最初、祭壇にアルミン一家が寝かされていることに気が付いたとき、まずエリザベスの裸体を見ようとした件については、一生黙っておくことにする。


 

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