第226話 カルトの街
舗装された道を進んでから30分もすると、突然、目の前が開け、そこに立派な街の入り口が現れた。
『楽しい観光の街リトルミナスへようこそ』
と書かれたアーチ状の看板が、門に掲げられている。
「なんだこりゃ……」
いくら舗装されていた道とはいえ、山奥の細い道であることに変わりはない。そんな中に忽然と開けた街が現れたのである。トイレに入ろうと思ってドアを開いたら、人込み溢れる繁華街のど真ん中に出たくらいの違和感だ。
違和感を感じたのは俺だけでない模様。皆一様に口をポカンと開けて看板や街を眺めていた。
周囲が山で囲まれていることから、街全体はそれほど広くはないのが伺える。
だが街の内部は石畳で舗装され、建物がコンパクトに集約されているので、街の中心部だけに注目すると、まるで王都の一角かのよに錯覚してしまうほど立派な造りとなっている。
「まるでドランの公都に来ているみたいだわ……」
アルミン夫人(幼女)が呟いた。俺がイメージしたのはアシハブア王国の王都だったが、ドランの公都も似たり寄ったりなのだろう。
街の作りの凄さに、皆が興奮冷めやらぬ中、俺だけは背筋に冷たいものが走るのを感じていた。
標識のない道路を進んだ先にある謎の街……
こんなのホラー映画の定番じゃねーか!
だって、ここから見える一番奥にある建物……魚を模したような、オコゼの頭をデザインしたかのような奇妙な建物……
絶対にカルトの街だろこれ!
「ハーイ! 旅人の皆様ー! 海と山の幸溢れる観光の街リトルミナスへ、ヨウコソですギョー!」
門の両脇から突然、『観光客様ご案内』と書かれた立札を持った男が飛び出してきた。
まるでピエロのような格好をした、その男はピョンピョンと門の前でジャンプしながら、俺たちを待ちに招き入れようとする。
「いえ、間に合ってるんで……」
と、俺がソッコーでお断りを入れて引き返そうとしたところで、
「わーっ! ピエロさんだー!」※ローザ
「ピエロ……魚のピエロカワイイ」※アリス
「こんな山奥に、このように素敵な街が……はぁ、今日はゆっくり眠れそうですわ」※エリザベス
「そうね。それに美味しい料理なんかも楽しめそうじゃない?」※アルミン夫人(幼女)
アルミン一家のほとんどが、ピエロ男に心を奪われていた。
ここはアルミン家唯一の男である、エドワードに期待するしかない。さぁ、俺と一緒に引き返すよう皆を説得してくれ。
「シンイチ様、今日はここで宿を取りましょう!!」
目をキラキラさせたエドワードの一言によって、アルミン一家の行動は決定した。
「さぁさぁ皆様、街の中へどうそ! とても良い時にいらっしゃいましたギョ! 今宵は星辰祭の日! 深夜に楽しいお祭りがあるのですギョー!」
そう言ってピエロ男が、エリザベスの馬を曳いて、街の中へと入って行った。
仕方なく、俺も馬車でその後をついて行く。
まぁ、【索敵】レーダーで見る限り、黄色と緑色のマーカーしか映っていない。
俺はホラー系は大の苦手だし、超ビビリなのも自覚している。
それでいてホラー映画が好きだったりするのだが、この街の雰囲気は、まさにホラー映画の舞台そのものだった。
もしかしたら、俺が気にし過ぎているだけかもしれない。
そうだ! だからチェックしてみよう。
まずその1、このピエロ男。
顔が魚面に見えるのは気のせいだろうか?
ほぼ左右の側面に近い目の配置やオコゼを思わせる唇とか、ちょっと人間離れしてる感がある。
いやいや、俺ってばなんて失礼なことを! もしかしたらそういう顔の人かもしれないじゃないか!
もしかしたらオコゼ系亜人なのかもしれないし!
「皆さんツイテますギョ! 今日いらした観光客は宿泊・食事は無料サービスなのですギョ!」
その2、語尾が気になる。
「さぁさぁ、街一番の宿屋『まな板の鯉亭』へご案内しますギョ!」
嫌な名前だなおい!
その3、街の人がいない。
【索敵】マップでは建物内に大勢いるのは分かっているのだが、目に見える範囲にはピエロ男しかいない。
俺はピエロ男にその疑問を投げかけた。
「祭りという割には、街の人が全然見えないんだけど? 帰っていいですか?」
俺の若干震え気味で発せられた質問に、魚面ピエロ男が大袈裟に驚くフリをする。
「ギョギョー! 街の人間は今夜の祭りの準備で大忙しなのですギョ! でも大丈夫ですギョ! まな板の鯉亭に行けば、食事をしている街の人たちもいるのですギョーッ!」
魚面ピエロ男が、そう大声で返事をすると、【索敵】マップに表示されている複数の黄色マーカーが、街の一角に集まり始めた。
まさか誘導でもしてるのか? もしかしてそこが宿屋じゃなかろうな?
俺たちは魚面ピエロ男の誘導に従って、宿屋へと移動する。
「さぁさぁ、こちらがまな板の鯉亭ですギョー! 皆さん、まずはお食事でもどうぞですギョー!」
黄色マーカーが集まった場所だった。
その4、街の人みんなが魚面
「やぁやぁ、観光客の皆様! ようこそリトルミナスへ! 今日は星辰祭の日! この街挙げて皆様を歓待させていただきますギョ!」
宿の主人を始め、食堂にたむろしている街の人々全員が魚面だった。
しかも全員、語尾が「ギョ」だ。
その5、怪しい建物
俺は店の主人に、気になることを尋ねてみた。
「あのー。街の奥にあるお魚さんの頭のような建物は何でしょう? 何かのイベント会場ですか? 帰っていいですか?」
店の主人が、もともとギョロリとしている目を、さらにギョロリとして俺を見る。
「ギョギョー! あの建物に目が行くとは、お目が高いですギョー! 仰る通り、あの建物は今宵の星辰祭の会場ですギョー! 皆様も是非、ご参加くださいギョー!」
参加してたまるか!
と、俺は心の中で叫んだ。
額から冷や汗が怒涛の如く流れる俺をよそに、アルミン一家は魚面たちと、楽しそうにおしゃべりを始めている。
さて、ここまできて俺の結論だが……
やっぱカルトの街だここ!
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