第220話 山賊死すべし慈悲はない
マウンテンバイクに乗り換えてから、俺たちの旅はかなりスムーズに進んでいる。
街道を進むと、たまに人とすれ違うことがあるが、軽く挨拶を交わす程度で、互いに足を止めることはない。
俺たちの乗っているマウンテンバイクをジロジロと見る者もいたが、俺と視線が合うとそそくさと先を急いで行ってしまう。
戦乱の最中だ。こんな寂れた北の街道を行く怪しい者には、なるべく近づかないに越したことはないとでも思っているのだろう。
幼女ライラがマウンテンバイクを漕ぐ超カワイイ姿に気を取られた輩は、俺から絶対零度の視線を向けられていることに気が付いて、慌てて逃げていっただけだろう。
幼女ライラのプリティな姿に、思わず目を奪われるようなロリコンは即抹殺だ!
ただし俺は除く。
もちろんロリコンでもないぞ!
(ココロ:ギルティ!)
(うひっ!?)
突然のココロチンのツッコミに思わず声が出てしまった。
(シリル:そんな小ネタはともかく、前方より怪しい集団が接近中ですよ)
(そ、そうなの! それじゃ【索敵】)
俺の視界に、8つの赤色と黄色のマーカー、4つの緑色のマーカーが表示される。
おいおい、赤マーカーとは穏やかじゃないな。
「ライラ、前から敵が8人、敵じゃないのが4人くるよ」
キッズマウンテンバイクで俺の前方を走っていたライラが、急ブレーキを掛け、後輪を滑らせながら停止する。
「了解です、シンイチさま!」
その声は、最近聞きなれた幼女ラブリー・ライラのものではなく、戦闘面では俺より遥かに頼りになる戦士ライラのものだった。
俺はマウンテンバイクから降りて、ライラと一緒に敵の接近を待った。
緑マーカーがなければ、もうこの時点で【幼女化】してしまうところだが、一応、状況は把握しておこう。
近づいて来たのは山賊の集団だった。
これは見た感じだけの判断だ。
むっさい髭面のおっさん8人。
身なりも態度も、まぁ、堅気じゃないですわ。
二頭引きの馬車におっさん二人と荷台の方に緑マーカーが四人。
他に馬に乗った6人の山賊。
ちなみに視界の【索敵】マップには、彼らは傭兵だと表示されていた。
だが……まぁ……。
山賊たちが俺たちの前で止まった。
俺は馬車の荷台にチラッと目をやる。布で覆い隠されているが、その下には四人の人間がいるはずだ。
どうしてそんなことするのか?
細かいことは分からんけど、
つまり、
こいつらが山賊だからだな!
そして俺のポリシーは、山賊滅殺!
俺がこの世界に転生して最初に出会ったのが山賊である。
最初に襲われたのが山賊であり、
お尻の危機に心底震えさせられたのも山賊である!
それ以来、俺は賊に対しては一切の容赦もしない系で突き進んでいる。
そう、山賊死すべし慈悲はない!
俺が一歩踏み出すと、馬乗った山賊の一人が、俺たちに声を掛けて来た。
「よう坊ちゃん、嬢ちゃん! こんなところで迷子にでもなったのか?」
そう言って、山賊は俺とライラのこと値踏みするかのように、上から下までジロジロと観察する。
「そうなんです! ところで皆さんはどちらへ行かれるんですか?」
俺は俺で、馬車の荷台を見ようと大袈裟に覗き込もうとする。
すると男は俺の視線を遮るように馬を動かした。
他の男たちに目を向けると、全員がニヤニヤと厭らしい笑いを浮かべている。
「俺たちは傭兵でな。これからドラン平原の戦いに赴くところさ」
「ドラン平原の? 神聖帝国軍と人類軍の会戦はもう終わりましたよ?」
俺は、山賊から驚きの反応が返ってくることを予想していたが、彼らはまったく動じなかった。
「まぁ、それが本当だとして。戦闘が終わった後でも傭兵の仕事ってのは、色々あるんだよ。例えば……」
お前たちのようなガキの誘拐――
とか言うつもりだったのかもしれない。だがそれは傭兵の仕事じゃなくて山賊の業だ。そして、俺は自分の推測の答え合わせをする気は毛頭ない。
俺は山賊の言葉を遮って、質問を投げかけた。
「ところで皆さんは、全員で8人でよろしかったでしょうか?」
「あ゛っ?」
「ここにいるのは、皆さん8人だけですか?」
急に声を落とした俺に、警戒したのか、山賊は取り敢えず黙って頷いた。
「【幼女化ビィィィム】(意識継続、エターナル幼女)」
早打ち0.3秒の俺のビームが8人の男たちに次々と命中していった。
ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ!
「「「なっ!?」」」
幼女となった山賊たちが動揺する。馬に乗っていたうち4人が落馬した。
「告げる!」
俺は幼女となった山賊たちに宣言する。
「直ちにここから去ることをお勧めする。俺はこれから荷台の4人に事情を聞く。ことと次第によっては、お前たちの命を奪うことになるぞ!」
「「「えっ!? えっ!?」」」
まだ動揺している幼女(山賊)たちを無視して、俺は馬車の荷台に昇って、布を取り払った。
そこには、身体を縛られ、猿ぐつわをされた四人の子供が横たわっていた。
「ライラ!」
「はいっ!」
馬車に飛び乗ってきたライラは、腰に下げていた文化包丁を抜いて、子供たちの縄を切り始めた。
攫われかけていた子供は、俺と同じくらいの男の子と女の子、そしてライラよりさらに小さな幼女が二人だった。
俺は年長の二人に、事情を聞くことにした。
「俺はシンイチ・タヌァカ。その子がライラ。ご覧の通り、今、君たちを助けたところだ。まず君たちがどうしてこんな目にあったのかを放してもらえるかな?」
「賊が! 賊たちが私たちの馬車を襲ったの!」
まず女の子が大声で答えた。
「お父様とお母様をアイツラが! アイツラが! 殺した!」
そう言って絶叫しながら、男の子が馬の要る方向を指差す。
だが、そこにはもう幼女(山賊)たちの姿はなかった。
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