第219話 マウンテンバイク

 北方の都市ローエンを目指して、俺とライラは旅を続けていた。


 ちなみに現在、ライラはマウンテンバイクに跨って街道を進んでいる。


「いやぁ……なんだか風が心地いいな!」


(ココロ:ねっ? 三輪車よりもマウンテンバイクの方が快適ですよね?)

(シリル:最初からマウンテンバイクにすれば、無駄遣いせずに済んだのに……)


 二人の会話を反射的にライラに伝えると、キッズ用プロテクターで身を固めたライラが、俺の前に走り出る。


「でも、あれはあれで楽しかったですよ! ねっ! しんいちさま!」


 と、天使の笑顔で俺をフォローしてくれた。


 二日前、女神クエストの悪魔勇者捜索をクリアしたことによる、ボーナスとしてAmazonoサービスが使えるようになっていたことを、ココロチンとシリルっちが教えてくれた。


 このサービス、購入できる商品は日本限定、注文は1日1回、神ネコ配送が1便で運べるもの限定、さらには注文した商品について天上界のチェックが入るという制限がある。


 だがそんなデメリットを差し引いても、このAmazonoサービスは魅力的だ。


 1便までという制限について、神ネコ配送便の佐藤さんに聞いてみると、


「バンに乗せられるものなら大丈夫っすよー」

 

 とのことだった。


 残念、巨大仏像や1億円する大型ロボットは無理ということか。


 とりあえず、今、あったらいいなということで注文したのが大人用三輪車。


 ギリギリなんとか、神ネコ配送便のバンに乗せられるサイズだった。


 三輪車の後ろにライラを乗せて、のんびりと旅を続けようと思ったんだけどな。


 舗道なんて存在しないこの旅路。


 ガタガタガタガタ、揺れて揺れて揺れまくり、俺はもちろん、後ろに座っているライラも全然快適ではなさそうだった。


 しかも長銛を横にして荷台部分に結び付けているので、さらに揺れが激しくなる。


 自転車で行くとなれば、岩場は避けるしかないので、その日の内に思い切って長銛は捨てた。


 あとは慣れれば何とかなると、三輪車で頑張って漕いだのだが、歩きの旅路より遥かに疲労度が高かった。


 結局、その翌日には三輪車は捨てることにした。


 それで次に購入したのがマウンテンバイクというわけである。

 

 これが大正解だった!


 まずライラのプロテクター姿が超カワイイ!


 以上!


 幼女なライラが、一生懸命にコキュッ! コキュッ! ってペダルを漕いでいる姿は、一日中ずっと見ていても飽きない自信がある。


 ライラもキッズ用マウンテンバイクを気に入ったようで、今朝もずっと俺のマウンテンバイクの先導をしてくれていた。


「疲れちゃうから、あんまり急がなくていいよ」


 と俺が声を掛けると、


「全然疲れてませんよ! しんいちさま!」

 

 と言いながら、俺の周囲をくるくると回るようにマウンテンバイクを走らせる。


「そろそろお昼だし、休憩にしよっか?」


 と声を掛けた時は、


「しんいちさま! もうちょっとだけ! もうちょっとだけ! 進みましょう!」


 と、珍しくはしゃいでいた。


 その後、しばらく進んでから、ライラが満足したのを見計らって、ようやく今昼食を食べている。


 俺はライラがモノノフバーガーにかぶりつくのを見ていた。カワイイ。


 ライラが幼女になって良かったことのひとつが、こうして何かに夢中になってはしゃぐライラを見ることができたことだ。


 元のライラは、何かにつけて俺を優先し、常に一歩引いて俺を立ててくれた。それはそれでとても嬉しいし、有難いことではある。


 でも、俺はライラにもっと自由に生きて欲しいと感じることが多かったのも事実だ。


 えっ、いや、自由って言っても、他の男に走るとかそんな自由は駄目だけどな!

 

 絶対駄目だからな! そこは束縛するぞ!


 ライラのパートナーは俺だけ! 俺だけだかんな!


 自由ってのは、それ以外! それ以外の話!


 ライラに捨てられたら、俺、死ぬ自信ある。


 というかそんなこと考えたら涙出て来たわ!


「し、しんいちさま!? どうされたのですか!? どうしてそんなに泣いているのです!? やっぱりお腹が空き過ぎちゃいましたか? わたしのせいでお昼が遅くなってしまい、本当にごめんなさい!」

 

 そう言って頭を下げようとするライラを制止しながら、俺はライラの口のケチャップを拭き取る。


 つい妄想が過ぎてライラを心配させてしまった。


「お腹が空き過ぎて泣いてるんじゃないよ。ライラのことが好き過ぎて、泣いちゃっただけ……」


「そう……なのです?」


 ライラはよくわからないという顔をして、俺の顔を見上げる。


 そしてしばらく何事か考えた後、顔を真っ赤にしながら話始めた。 


「あっ、あの時のお話は、わわ、忘れて欲しいのです! えっ! あっ! シンイチ様への気持ちは本当なのですが、あの、あのときの自分はちょっと、恥ずかしいっていうか……その……」


 最初、ライラが何を照れているのかわからなかったが、どうやら自分が死ぬことを覚悟したときにした、俺への告白のことを言っているようだった。

 

 まったくもう!


 あわあわしているライラ、超カワイイんですけど!


 俺はライラの恥ずかしそうに照れる顔をおかずにして、ご飯三杯……ご飯はなかったのでモノノフバーガーを3個平らげた。


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