第218話 ライラと支援精霊
船を使って、アシハブア王都経由でグレイベア村に戻るルートは諦めた。
このまま北に向って、マルラナ山脈の古代神殿にある拠点から、一気に地下帝国に転送で帰ることにする。
海沿いの街道を北上し続ければ、途中にいくつもの村や町もあるはず。ひと月そこらで港湾都市ローエンに到着できるはずだ。
そこまでいけば、後は北方人の村までは馬車で行くことができる。村の人たちはとても親切で、これまでも色々とお世話になってきた。
俺たちの村でもホドリスとミカエラという村出身の北方人を受け入れている。北方人というのは、最初は無口で不愛想で、どうにもとっつきにくい面がある。だが一度信頼を結ぶことができれば、とても人情の厚い人たちだ。
古代神殿に向かう俺とライラにも、力を貸してくれるに違いない。そう信じて、俺たちは街道を北上した。
街道と言っても、整備された道路があるわけではない。人が歩き馬車が通った跡が残っている程度の道だ。
海岸沿いといっても、砂浜の横に道があるというわけでもない。道のほとんどは、内陸側に一キロは入った場所を通っている。
峻嶮な山々に囲われた狭い道を通って行かなければならないこともあれば、見渡す限りの荒野が目の前に広がることもある。そうした荒野はかならず斜面になっていて、まぁ、歩くのに楽だった試しはない。
「ライラ大丈夫?」
岩場の急な斜面で、俺はライラに手を差し伸べる。
「ん、シンイチさま、ありがと」
ライラは俺の手を握り、少し距離を測ってから、俺の胸に飛び込んできた。
「……っと」
俺はライラが飛び込んできた勢いを、やや後方に下がりつつ、腰だめに構えた長い銛へと流す。
この長銛は、先日立ち寄った漁村で譲ってもらったものだ。クジラのような得物を仕留めるためのものらしく、2.5メートルくらいの長さがある。
正直、俺は剣が苦手だ。マーカスやステファンから手ほどきは受けてはいるが、まぁ、自分でも分かるくらいに才能がない。
異世界転生者の武器と言えば、聖剣や魔剣の類になるのだろうが、俺はきっぱりと諦めた。特に諸刃の剣は、剣に振り回された挙句、自分自身を削ってしまいそうになることが何度もあったのだ。
ゴブリン戦のときにマーカスから「とりあえず構えて立ってればいい。運がよければ向こうから刺さりに来てくれる」と渡された槍が、俺には一番合っている得物だ。
といっても、槍での戦いが得意というわけではない。だが、槍を使って遊ぶことにかけては、かなり自信がある。
ちなみに今、俺が手にしているのは長銛だけど、だからと言って俺の槍術に違いが出てくることはない。まぁ、それくらいの腕しかないということなんだけど。
槍は良い!
何と言っても、高いところにある果実を落とせるし、物干しになるし、砂地に円が描けるし、3次元の移動に超便利だ!
俺ほどの槍の達人(笑うとこ)になると、身長より高い場所でも、槍を使って降りることができる。
3メートル以上ある岩場の斜面。
こういう場合、まず俺は槍を下にぶら下げる。ライラがそれを
次に俺。
まず槍をしっかりと握り締めて、槍ごと地面に飛び降りる。
地面に槍が着いたところで、槍を握る手の力を加減して勢いを殺しながら着地。
これはマーカスから教わった技で、槍兵が山岳を移動するときに使うテクニックらしい。
逆に岩場を昇るときも、身体を支えるのに役立つ。
槍、超便利!
こういう変な使い方の研究については、才能ありとマーカスからも褒めらたくらいだ。
呆れ顔だったけどな。
シュタッ!
と華麗に着地を決めた俺をライラが拍手で褒めてくれる。
パチパチ!
「シンイチさま、すごい!」
ふっ。思わずドヤ顔しちまったぜ。
こんな感じで、俺とライラは険しい岩場も、それほど苦労することなく進んで行った。
岩場を抜けて街道に出る頃には、日も落ちてきたので、今日はこの辺で野営することにした。
第三者から見れば少年と子供の二人連れだが、実際にはヴォルちゃんがいて、支援精霊二人がいる。
ライラは以前から、俺に支援精霊がついていること事態は知っていた。
今回の長旅で、俺は改めてライラにココロチンとシリルのことを紹介した。会話は俺経由ということにはなるが、今では三人とも仲良しになっている。
(ココロ:ライラさんが、こっちに来たときは一緒にショッピングに行きましょうね)
俺はそのままの言葉をライラに伝える。
「はい! ココロさんやシリルさんとお会いできる日が楽しみです!」
(シリル:ライラさんが一日も早く治癒されるよう、私たちも全力でサポートしますから!)
俺はそのままの言葉をライラに伝える。
「ありがとうございます!」
ニッコリと微笑むライラが俺の瞳に移る。
(ココロ:はぅ! 小っちゃいライラさんカワイイです!)
(シリル:お持ち帰りしたい! そのためにも田中様! 頑張って悪魔勇者を倒しましょう!)
俺が二人の言葉をそのままライラに伝えると、またライラが超カワイイ笑顔を見せる。
こうした会話が繰り返されるうち、
いつの間にか、俺はココロチンとシリルっちの発言を、反射的にライラに伝える癖がついてしまった。
まるでパブロフの犬のように。
これがココロとシリルの陰謀だったことに気付くのは、もう少し先のことである。
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