第215話 北へ
ドラン大平原の北にある山の中。
俺は焚火の前でスルメイカを齧りながら考え事をしていた。
ライラは俺の膝枕で眠っている。よほど疲れていたのだろう、ずっと深い呼吸が続いている。俺がちょっと身じろぎしたくらいでは目覚めるようなこともなかった。
【索敵】マップには、俺とライラの他にマーカーは表示されていない。もし、何かが近づいてきたら、支援精霊が教えてくれるはずだ。
焚火の中では、ヴォルちゃんもリラックスした様子で、時々あくびをしている。ヴォルちゃんも何かが近づいてきたときには、俺に警告を発してくれるだろう。
そんなわけで、今の俺はかなり落ち着いた状態で考えることができた。
「はぁ……コーンスープうめぇ……だけど、なんかもう一味欲しい気がするんだよなぁ。何が足りないんだろ」
そう独り言ちながら、ネットスーパー商品研究所で試作された最後のスープを飲み干す。
「さて……これからどうするか?」
グレイベア村に戻るのであれば、ここから南下するルートが最短距離となる。だがそこは数多くの人類軍で溢れている。
人類軍が悪いというわけではない。神聖帝国軍よりはよほどマシであることは間違いない。だが神聖帝国軍と戦っているからと言って、人類軍が、正義の味方の高潔な人々という訳ではない。
というか、ドラン大平原に到着するまでに、人類軍の兵士たちとの接触は魔族兵以上に多かった。
まぁ……碌な連中じゃなかったよ。もちろん全部じゃないけどさ。
小さな農村が襲われていると思って近づいてみたら、乱暴を働いているのが魔族兵じゃなく、人類軍の小隊だったってこともあったし。
正直、ライラを連れたまま人類軍と接触するのは断固としてお断りしたい。
つまるところ神聖帝国軍と遭遇するよりは、マシというだけの話でしかないのだ。
ドラン大平原の西から北西にかけては、神聖帝国軍で溢れている。
東は海だ。
となると残されるルートは東南と北ということになるのだが……。
「北に向かう者はほとんどいないな……」
北方諸国連合は、今回の大戦において人類軍にも神聖帝国軍にも与せず、静観しているという話を道中で耳にしていた。
ドラン大平原から北は、寒さが厳しい上、峻嶮な山々が幾重にも渡って横たわっている。北方諸国連合がこの戦で静観を決めていられたのは、マルナラ山脈という巨大な壁の存在があるからだ。
この山脈には恐ろしい数多の魔物が巣食っていると云われている。そうした恐ろしい妖異や魔物たちの存在が、北方連合が南にある諸国との行き来を阻んでいるのである。
俺自身、女神クエストでマルラナ山脈に旅したことがある。そのときは海路を使ってローエンという港湾都市に行き、そこから山中を目指した。
そこにある古代神殿でドドミ=ゴという巨大な妖異と戦い、勇者の遺体を発見したりもした。今でもそこは危険極まりない場所であることは間違いないだろう。
「いやホント、あの巨大な蚊の羽音を思い出すだけで、悪い夢を見そうになるよ」
(ココロ:あの古代神殿の女神クエスト、また発注されてますよ。ドドミ=ゴではないですが……)
ドドミ=ゴ狩猟の際、特に山中にいる妖異を殲滅したわけでもない。古代神殿の道中で倒した妖異なんて、あの周辺にいる妖異の数からすれば微々たるものだったのだろう。
(シリル:一覧表示します)
≫ 受注可能な女神クエスト一覧
≫ ● 悪魔勇者を探せ! 報酬:EON800万ポイント
≫ ● 悪魔勇者を倒せ! 報酬:EON58億ポイント
≫ ● 悪魔勇者眷属を探せ! 報酬:EON1000万ポイント(個体毎)
≫ ● 悪魔勇者眷属を倒せ! 報酬:EON1億ポイント(個体毎)
≫ 〇 妖異ミ=ゴの基地を破壊せよ! 報酬:EON2憶5千万ポイント
≫ 〇 妖異ミ=ゴの狩猟 報酬:EON50万ポイント
(んっ!? 悪魔勇者の捜索クエストがまた出てるけど?)
(ココロ:はい。田中様も、再び悪魔勇者との接触に成功すれば、また報酬を得ることができますよ)
(シリル:常に悪魔勇者の位置を把握しておきたいということでしょう)
そういえば悪魔勇者はどうなったんだろう。
人間の幼女なんてか弱いものになっていたし、他の幼女から襲われていたみたいだし、そのままくたばってくれてたらよかったのだけど。
(女神クエストに上がってるってことは、まだ生きてるってことだよね)
(ココロ:そうですね)
(シリル:残念ながら)
ピコーン!
俺の頭上にビックリマークが浮かんだ。
(ミ=ゴの女神クエストだけどさ、もしかしてここに表示されてる基地って、マルラナにある古代神殿のことじゃない?)
(ココロ:えっと……詳細……詳細……)
(シリル:その通りです)
(確か、あそこには拠点があったよね? あの拠点を使えば、一瞬で地下帝国に戻れるのでは?)
(ココロ:戻れますね)
(シリル:戻れますよ?)
よし! 北へ向かおう!
北なら人類軍も神聖帝国軍も、それほど警戒する必要もない。
もし海路が使えれば、ひと月も掛からず辿り着くことができるはずだ。
いや、もし海路が使えるなら、そのままアシハブア王国の王都ハラルバルトに行って、そこからグレイベア村を目指せば良い。
確か、ドラン公国に北方航路を行く商船が寄港する港町があったはずだ。
俺は自分の思い付きに酔いしれ、これで万事うまくいくと確信し、先祝いのカップ酒でひとり乾杯した。
その夜は眠気に襲われるギリギリまで、ずっと膝でぐっすりと眠っているライラの頭を撫で続けて過ごした。
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