第214話 異世界転生コンテンツ

 キモオタ師匠のおかげで、ライラの治療についての目途が立った。


 ライラのために女神様に直談判してくれたそうだし、俺もこれまで抱えていたキモオタ師匠へのクレームは、ここで一度、ご破算ということにしよう。


 あとは、これから現れる勇者に俺が協力して、共に悪魔勇者を倒すだけのことだ。


 悪魔勇者は今ただの幼女になっている。


 しかも、右腕を失っている。


 あまり楽観し過ぎるのも良くないけど、もしかすると身内の妖異に喰われたり、下剋上で勝手に滅んでくれる可能性も少なくないはず。


 そしたら、あとはライラが三年間の転移すれば完全に元通り。


 元通りなのだが……。


「うーん。三年もライラと離れ離れになるのかぁ……ちょっと耐えられそうにないな……」


 我ながら勝手なもので、ライラの治癒について目途が立った途端にこれである。


(だって転移って、勇者のいた世界にいっちゃうんでしょ? その世界は安全なの? 危険な場所だったりしないの?)


(ココロ:おそらく田中様のいた世界へ転移することになると思いますよ。次の勇者もそこから選ばれるはずです)


(シリル:田中様のいらした世界は、この天上界との接続ポイントが多いので、まずそうなると思います)


(接続ポイント?)


(シリル:説明するのが難しいのですが……えーっとそうですね、事象面で言えば、田中様の元世界で『異世界転生』という言葉が広く知られていませんでしたか?)


(うーん? どういうこと?)


(ココロ:ほら、異世界転生のウェブ小説やマンガ、アニメ、映画……そういうの色々あったじゃないですか。そういうことですよ?)


(ですよって言われてもなぁ……)


(シリル:田中様の世界において『異世界転生』という概念が存在し、それが文化となって広まっているのは、天上界が接続ポイントを増やし続けてきたことに起因するのです)


(な、なんだってー!)


 その後のシリルの説明の半分も理解できなかったが、凡その理解によると――


 天上界は、惑星ドラヴィルダに迫りくる妖異を撃退するために、昔から異世界間の転移や転生を行っていた。その中で最初に俺のいた世界と接触したのは偶然のことだったらしい。


 だが俺たちの世界の人間は、転移・転生時に身に着けるスキルが、他の世界の住人と比べて格段に強力なものになる傾向があった。


 結果、転移・転生は、俺たちの世界だけに絞り込まれるようになる。


 ところで転移や転生というものは個人だけではなく、その世界全体にとっても大きな負荷が掛かる。


 その負荷を減らす無意識の行動のひとつが、個人で言えば「異世界転生モノ」を嗜むというものである。


 実際、異世界転生コンテンツになじんだ転生者たちの多くが、突然の召喚や転生にパニックを起こして潰れることなく、すんなり現実を受け入れることが出来ているのだとか。


 近年、惑星ドラヴィルダに侵攻する妖異が増えるにつれ、転移・転生も増えてきている。数が多くなってきた結果、俺たちの世界の集団無意識が負荷対策として、「異世界転生」を受け入れる素地を作ろうとした。


 つまり、日々のように新しく生み出される大量の異世界転生コンテンツは、集団無意識による転移・転生の負荷軽減対策だったのだ!


(なるほど! そうだったのか! だからか! だから俺は異世界ハーレム系とか槍男シリーズにハマってたのか!)


(ココロ:いえ、ハーレム願望は田中様の個人的欲望ですよ?)


(シリル:ただの性癖だと思います)


(……なんかごめんなさい。それでつまり、俺の元いた世界でライラは三年を過ごすってこと?)


(ココロ:ほぼ間違いないと思います)


(まさか、一人きりじゃないよね? 三年間、家なき子とか洒落にもならない!)

 

 勇者と一緒に戻って来るというのは、まったく安心材料にはならない。


 こっちの世界では勇者かもしれないが、元の世界では、学校でボッチだったり、ニートだったり、うだつの上がらないブラック企業のサラリーマンだったり、ハッキリ言ってロクなのがいない気がする。

 

 例えば俺!


 全部、経験済みだよ!


 勇者じゃないけどさっ!


(ココロ:大丈夫ですよ。ちゃんとライラさんを支援する体制は用意されていますから)


(そうなの? ほんと?)


(シリル:ちなみに私たちも支援組織にご案内する際に、少なくとも一度はライラさんとお会いすることになると思います。もちろん、向こうにいる間、私たちもライラさんを精一杯サポートさせていただきますよ)


(そ、そうなんだ! それなら安心できるね!)


(ココロ:ええ。その時になって、ようやく私の田中様悪行レポートをライラさんにお渡しできるというわけです)


(シリル:それ、私も作ってます)


(まったく安心できねぇぇぇ!)


 それから二人は、少しだけ内情を明かしてくれた。


 どうやら、ライラの受け入れ先は、既にある程度絞られているらしい。


 ある程度の内容は明かしてくれなかったが、それを知ったときには、きっと俺も驚くはずだと言って二人とも笑っていた。


 まぁ、二人が楽しそうに話している様子を見る限り、転移したライラの生活はそれほど悪いものにはならないだろう。

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