第205話 戦場真っただ中
ライラを背負ったオーガが神聖帝国軍の戦列に突入したとき、俺はオーガまであと数十メートルという位置にいた。
無我夢中でオーガの後を追い続けていたら、思わず戦列に入ってしまったけど、誰何する者はいなかった。
ふとオーガの右手に灰色ローブが握られているのが目に入った。
そういえば、俺も今は灰色ローブに身を包んでいる。
もしかして、この灰色ローブが敵味方の識別になっているのかもしれない。
そんなことを考えていると、俺の耳に大きな音が入ってきた。
ザッ! ザッ! ザッ! ザッ! ザッ! ザッ! ザッ! ザッ! ザッ!
どうやらゴブリンやオーク、岩トロルからなる最前列が、進軍を始めていたようだった。
ザッ! ザッ! ザッ! ザッ! ザッ! ザッ! ザッ! ザッ! ザッ!
もしかすると、さっきの角笛と太鼓の合図で会戦が始まったのだろうか。最前列に続いて、他の隊列も次々と進軍を始めていく。
オーガも俺も、その隊列の間を突き進んでいたが、まるで見えていないかのように無視された。
途中、隊長らしき魔族兵と何度か目があったものの、彼らは俺に構うことなくそのまま進軍を続ける。
とにかく俺にとっては好都合。このまま行けば、もう少しでオーガに追いつくことができるだろう。
オーガを【幼女化】したら、そのまま陣を突っ切って逃げよう。
そう考えて俺はひたすらオーガの後を追った。
遥か前方に、巨大な天幕とそれを囲む外壁が見える。
山から見た時には、ただの壁に見えていたもの。
その壁の正体を知り、俺の心臓が跳ね上がる。
それは無数の巨大な森の黒山羊、ショゴタン、まだ出会ったことのない巨大な妖異の群れ、それらが横一列に並ぶ姿だった。
ヒヒィィィィィン!
妖異の群れに気付いた馬が狂乱し、馬が前足を高く上げて、俺を振り落とそうとする。
「どう! どう! 落ち着け! 大丈夫だ! 落ち着行け! どう! どう!」
俺は必死に馬を制御しようとするが、暴れるのを止めない。
俺の声が耳に入ったのか、目の前のオーガが振り返った。そこで初めて俺が迫っていることに気が付いたのか、その表情が驚きの顔に変わる。
「ぐおぉおお! ぐごぉおお!」
オーガは大きな咆哮を上げ、毛むくじゃらの手を俺に向って振った。
各隊列の端を歩く魔族兵たちが、俺に目を向ける。
指揮官らしき屈強なオークが俺に剣を向けて叫んだ。
「グギギギ! 敵が紛れ込んでおるぞ! あのガキを踏み潰せ!」
その瞬間、俺は馬から振り落とされた。
何とか受け身をとって、勢いのまま地面を転がる。
最悪なことに、俺は進軍する隊列の前に出てしまった。
ゴブリンとオークの兵士の隊列は、まるで動く壁のように俺を押しつぶそうとしていた。
「【幼女化ドゥゥゥゥム!】」
ほぼ脊髄反射で俺は【幼女化】を発動する。周囲10メートルにいる魔族兵がすべて幼女に変わった。
だが既に【索敵】マップにはライラの青いハートマーカーはなかった。
「【幼女化ビィィィィム!】」
俺は続けて【幼女化ビーム】を照射しながら、ぐるりと一回転する。周囲30メートルにいる魔族兵がすべて幼女に変わった。
突然、大量の幼女が出現したことで、周囲の隊列は混乱したが、それでも進軍が止まることはない。
後方を振り返ると、西方から人類軍がこちら側に迫ってきているのが見えた。
「ライラは!?」
東へ目を向けると、オーガは巨大妖異の壁を走り抜けようとしているところだった。
あの巨大妖異の量……ライラが眠っていてよかった。
もし目覚めている状態で、あの妖異共を直視していたら、彼女の精神に大きな負荷が掛かっていたはずだ。
俺は周囲にいる幼女たちの間を、身を低くして走り抜ける。
岩トロルを橇に乗せて運んでいたオークのたちの指揮官が、俺の存在に気が付いて騒ぎ始めていた。
「【幼女化ビィィィィム!】」
岩トロルとオークたちが幼女になった間を、【幼女化】を使いながら走り抜けていく。
「【幼女化ビィィィィム!】」
ボンッボンッボンッボンッボンッボンボボボンッボボボンッボボボンッ!
「【幼女化ビィィィィム!】」
ボンッボンッボンッボンッボンッボンボボボンッボボボンッボボボンッ!
「【幼女化ビィィィィム!】」
ボンッボンッボンッボンッボンッボンボボボンッボボボンッボボボンッ!
周囲にビームを放ちながら、俺はひたすらオークを追っていった。
そして――
「【幼女化ビィィィィム!】」
ボンッボンッボンッボンッボンッボンボボボンッボボボンッボボボンッ!
(ココロ:ピロロン! 【幼女化】スキルレベルアップ! スキルレベルが9になりました!)
ココロチンが【幼女化】スキルが上がったことを知らせてくれた。
(ココロ:最大効果持続20年。魔力デポジット5%。リキャスト30秒。幼女化ビーム射程、直進120m。範囲発動50m。幼女化解除が可能になりました!)
「よっし! ナイスタイミング! ココロチン!」
俺は混乱する幼女たちの中心に立ち、ゆっくりと迫りくる巨大妖異の壁に目を向ける。
「行くぞ! 正義の!」
俺は腕を十字に組んで叫んだ。
「【幼女化ビィィィィィィム】!」
俺は目の前にいる魔族兵と、迫りくる巨大な妖異たちに、右から左に向けてビームを一閃した。
ボンッボンッボンッボンッボンッボンボボボンッボボボンッボボボンッ!
巨大な妖異の壁が一瞬で消滅し、すべて幼女と化す。
だがライラを抱えたオーガは天幕に向って、ずっと先に進んでいた。
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