第202話 帝都指定ゴミ袋温泉


「この足跡は、おそらくオーガのものですね。先程の魔族兵団と接触した際、ライラ様を運んでいた岩トロルの代わりに調達したのでしょう」

 

 フォーシアが地面に残された大きな足跡を調べて、そう判断を下した。俺の足の二倍はありそうな大きさの足跡だ。


 オーガという種族を俺は見たことはないので、とりあえずフワデラさんが全身毛むくじゃらになった感じのイメージをしておく。


 ヤバイ超怖そう!


「幸い……と言っては何ですが、ライラ様の元へ向うにはこのオーガの足跡を辿って行けばよいということでもあります。もし夜鬼を使って運ばれていたら、見失っていたかもしれません」


 夜鬼といえば、確かイゴローナックル戦でルカを襲った、怪人蝙蝠男みたいな連中だったか。


「どうしてアサシンたちは夜鬼を使わなかったの?」


「はっきりは分かりませんが、夜鬼というのは日中は力が落ちて、あまり活動できなくなるためかもしれません。また空を飛べば、夜中でも夜目の効く連中に見つかる可能性があります。もしかすると隠密に行動したかったということかもしれません」


 フォーシアが立ち上がって、俺の顔を覗き込んできた。


「シンイチ殿、今日はまだ進めますか? この足跡はまだ新しい。私たちはライラ様にかなり近づいているはずです。できればドランに入ってしまう前に、アサシンたちを押さえたい」


「もちろんだ! 早くライラのところへ行こう! でも3分だけ待って!」


 俺はフォーシアに後ろを向いてもらってからズボンを降ろした。


 ネットスーパーで買った筋肉疲労の塗り薬をふくらはぎに塗りたくった後、ふくらはぎサポーターを装着。さらに腰には冷湿布を張って、疲労回復ドリンクをがぶ飲みした。


「よっし! 準備完了! さぁ、ライラのところへ行こう!」


 と、元気を振り絞る俺を、フォーシアは呆れたような表情で見ていた。


「あの……私が先行して、後から追いついて頂いても良いのですよ?」


「大丈夫! 大丈夫! さぁ、行こう!」


 それから三時間後。


 へとへとになって地面に倒れ込んだ俺は、結局、フォーシアに先行してもらうことにした。


 毎日、幼女化体操してたし、色々と身体を鍛えてはいたので、それなりに体力が付いたと思っていたんだけどな。


 さすがに森の中を移動するエルフに、ずっと付いて行くのは無理があったようだ。


「ライラ様を見つけたら、アサシンたちは足止めはしておきますので、十分にお休みをとってから追ってきてください。いざ戦いのときに体力が尽きて動けないなんてことにならないように」


 フォーシアはそんな言葉を残して先に進んで行った。




~ 疲労回復 ~


 ゆっくりと歩いてフォーシアの跡を追っていると、また小川にぶつかった。


 陽もすっかり落ちてしまったので、ここで野営を張って休むことにした。


「足三里ってツボがあるらしいッスよ。えっと膝の少し下、向う脛のちょっと外側、そうその辺みたいッス」


 ネットスーパーで夜食を届けてくれた佐藤さんが、スマホで足の疲れを取るツボを調べてくれた。


 百均のツボ押し棒で、グリグリすると痛いながらも気持ちいいというMな快感に襲われる。


「おほぉおお! 気持ちひぃぃ!」

 

 ピュッ!


 冷たい水が俺の顔に掛けられた。


「おっ! リヴィ! 準備できたの?」


 リヴィがコクコクと頷く。


「準備ってなんすか?」

  

 佐藤さんが頭にクエスチョンマークが浮かんでそうな顔で聞いてきた。


 俺は小川の近くにある、小さなくぼみに敷き詰めた帝都指定ゴミ袋を指し示し、ドヤ顔で答える。


「これ、これだよ! 名付けて帝都指定ゴミ袋温泉!」


「えっ!? 温泉?」


「そう、温泉! リヴィ! ヴォルちゃん! お湯お願い!」


 リヴィがコクコクと頷くと、小川の流れが一部分かれて、くぼみの中に流れ込み始める。


 くぼみの少し手前では、先ほどからヴォルちゃんが川石に火を吹きかけて熱していた。


 川の水は、くぼみに流れ込む前に熱せられた石に振れる。最初はジューッと音を立てて蒸気が立ち昇っていたが、それもすぐに収まり、くぼみの中に温かいお湯が溜まっていく。


 俺は湯加減を確認してから、帝都指定ゴミ袋温泉に身体を横たえた。くぼみ自体は浅いので、横たわってなんとか身体が湯に浸かる程度ではあったが、それでも十分に気持ちよかった。


「ほわぁぁぁあ! 生き返るぅぅぅ!」

 

 ちなみにこの帝都指定ゴミ袋温泉、これで三度目なので、リヴィやヴォルちゃんによるお湯の量や温度の調整は、もはやパーフェクトと言って負い。


「おぉ、何すかそれ! 凄く気持ち良さげじゃないッスか!」


 佐藤さんがいたく感動してくれている。


「いやぁ、これくらいやって身体を癒さないと、エルフの脚力に付いて行けないんだよね」


「そんなに凄いんスか? エルフの脚力って」


「もの凄いったらもう! 岩場とかでもビュビューッって走っちゃうんだよ……」


 スーッ!


 絶妙な湯加減にリラックスし切って俺は、急に強烈な眠気に襲われ……。


「ほんと、お疲れなんスね。精霊さんたち、田中さんのことよろしくッス。田中さん、ライラさんが無事に戻……」


 落ちていく意識の中、佐藤さんが何か言っているのが聞こえていたが、何を言っているのかは聞き取ることができなかった。

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