第195話 コボルト村急襲3
グレイベア村に逃れて来た者たちからは、ライラについての情報を得ることはできなかった。
ライラが森へ出掛ける前に挨拶を交わした、コボルトの少女コリンの証言だけが唯一の手掛かりだった。
「妖異の相手はルカちゃんとグレイちゃんに任せたよ」
「任せられたのじゃ!」
「うっ、うっー!」
グレイベア村から出発する間際、俺は二人にグレイベア村と地下帝国の守りを念押しした。
「それじゃ、それじゃコボルト村に出発する!」
俺はミケーネたち六人のラミアに声を掛ける。
「シンイチ! ちょっと待つのじゃ!」
ルカが俺の腕を掴んで止めた。
「どうしたの?」
「お主はライラのこととなると、どんな無茶をするかわからん。お主の護りにボルカノンとリヴィエールを付けてやる」
そう言うと、ルカは両手を俺の前に差し出した。
その掌の上には、サンショウウオに似た火精霊のヴォルカノンと、白いワンピースの小さな女性の姿をした精霊が乗っていた。
「あ、ありがとルカちゃん」
俺が両手を差し出すと、二体の精霊がルカちゃんの手から移って来た。
「ヴォルちゃん、久しぶり! で、こっちがリヴィエール……さん? よろしくね!」
リヴィエールがコクリと頷いた。顔は長い黒髪で隠れていて見えない。というか、ちょっとホラー風味が強い。夜中に枕元に立ってたら、絶対に泣く自信がある。
挨拶を終えると、二人はフッと姿を消した。俺には分からないが、見えなくなっただけで、俺から離れたわけではない……らしい。
「それじゃ行ってくる」
「おぉ、気を付けての」
「うーっ、うっー!」
ふっと、俺の身体が浮き上がる。
ミケーネが俺の身体を持ち上げて、胸元に抱えたのだ。
イゴーロナック戦のときもそうだったが、戦闘前の状況では、彼女の胸クッションを楽しむ余裕はない。
ただ安心感はあった。
「では陛下、参りましょう」
夕陽に染まるグレイベア村を出て、金髪のラミアに抱かれた俺と、後に続く5人のラミアが音もなく森の中へと入って行った。
~ コボルト村炎上 ~
ラミアたちに交互にお姫様抱っこされながら、俺たちは休むことなく森の中を進み続けた。
「陛下! あ、あれを……」
コボルト村の北の崖に辿り着いた俺たちは、夜空を赤く染める炎を目の当たりにする。
煌々と燃え上がる村の姿を見た。
ロコ邸が燃えていた。マーカス邸が、イリアくんの宿屋が、村の家々が燃えていた。
ドゴーーン!
ドゴーーン!
ドゴーーン!
燃えていない家を、岩トロルが破壊しようと拳を打ち付けている。
松明を抱えたゴブリンたちが、村中に火を付けて回っている。
コボルト村の犠牲者の遺体をオーク兵が、乱暴に引き摺っている。
口の中に血の味がする……
唇を噛み切っていた。
崖下を見ると、ゴブリン洞窟の前に魔族兵の一団が見えた。岩トロルが巨大な拳を振り上げて封鎖された入り口を破壊しようとしている。
怒りで……
怒りで視界が真っ赤に染まった。
「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
俺はラミアの胸から飛び降り、岩トロルに向って急こう配の崖を滑り降りて行った。
いや――
ほぼ落ちていった。
「「「陛下ぁぁぁ!」」」
「「「シンイチ様ぁぁあ!」」」
頭上からラミアたちの悲鳴が聞こえた。
俺は片手を崖に掛けて滑り落ちながら、もう片方の手を岩トロルに向ける。
「【幼女化ビィィィィィィム!】」
ボンッ!
一瞬で岩トロルが幼女となった。
オプション設定は意識維持、効果時間1日に設定してあった。そのため幼女になった岩トロルは、混乱しつつも再び洞窟の封鎖を拳で叩き始める。
ズザザザザァアアア!
落ちる勢いを止められないまま地面に転げ落ちた俺は、そのまま転がりつつゴブリンとオークの集団の中に突っ込んで行った。
目が廻って天地もわからないままの状態で、俺はスキルを放つ。
「【幼女化ドゥゥム!】」
ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ!
俺の周囲10メートルの範囲にいたゴブリンとオークたちが、全員幼女となった。
転げ回ったせいで激しい
俺の後を追ってきていたラミアが何人か【幼女化】に巻き込まれてしまったようだ。
【幼女化】を免れたラミアたちが、俺の周囲を固める。その周りには混乱した幼女たちで溢れかえっていた。
俺は大声で叫ぶ。
「五つの村に忠誠を示せ!」
咄嗟に四人の幼女が両足を揃え、右手を左胸に当てて敬礼姿勢を取った。
タヌァカ五村の住人たちなら誰もがこの敬礼を知っている。
幼女化体操の最後にも行われているこの敬礼。一般住人は、何かしょーもないことをさせられてる……くらいにしか思っていないだろう。
だが本当は、今回のように敵味方が入り乱れて幼女になってしまった場合の判別法なのである。
「あの四人以外ぶちのめせ!」
俺の言葉を聞いて、二人のラミアが、四人を除く全ての幼女たちの足を払った。
ラミアの尻尾の勢いは激しく、転がった幼女たちは誰も起き上がることができない。足が変な方向に曲がってしまったのもいた。
俺は封鎖された洞窟の前できな声を張り上げる。
「みんな! 大丈夫か! シンイチだ! 無事ならここを開けてくれ!」
「シ、シンイチくん! シンイチくんなの!? ちょ、ちょっと待って……」
洞窟の奥でガタガタと音がして、ゆっくりと扉が開いた。
そこからそっと外に顔をだしたのは、イリアくんだった。
「あっ! シンイチくんだ! みんな! シンイチくんが来てくれたよ! もう大丈夫だよ!」
「「「おぉおおおお!」」」
洞窟の中から、大勢の歓声が聞こえて来た。
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