第189話 勇者を注文
イゴローナックル将軍の大敗で、数多くの大型妖異を失ったはずなのに、セイジュー神聖帝国は、相変わらずグレイベア村を狙っているようだった。
さすがに大軍を派兵してくるようなことはないものの、小規模の魔族部隊が妖異を伴なって頻繁にグレイベア村周辺に出没している。
女神クエストが発注されるような危険な妖異や魔物であれば、俺とルカとグレイちゃんが出撃して対処することができる。
だがそれ以外の敵については、リーコス村の白狼族やネフューネ村のエルフたちの協力が不可欠な状況だ。彼らのおかげで、東と北方向からグレイベア村に接近する敵の動きは、ほぼ把握することができている。
グレイベア村の南と西方向については、アシハブア王国の領土が広がっているので、そこから敵が来ることはないと考えている。もちろん警戒はしているけど。
しっかりとした警戒網が敷かれていることもあって、これまでのところ敵の撃退は難なくこなせていた。
ただ、妖異を伴なった魔族兵の部隊だけは非常にやっかいだ。というのも、彼らは長距離を移動する際に、妖異の餌として奴隷を連れている。そして、俺たちが妖異と部隊を撃退した際、彼らは奴隷を残して逃げていくのだ。
奴隷は人間とは限らない。魔族の奴隷もいる。部隊が移動する途中で襲った村々の住人だったりすうることもあった。
さすがに戦場の真っ只中で、ほぼ素っ裸に近い状態でポツンと取り残されている彼らを放っておくことはできない。ので、結局、俺たちは彼らを幼女化した上で地下帝国へと連れて帰ることになる。
そのまま戦場に置いておくべきだという意見もあった。
以前、地下帝国で行われたタヌァカ五村の会議で、そうした意見が出たことがある。
「私は、彼らを連れ帰ることに反対です!」
その意見を強く主張していたのがダークエルフのミリア。
アサシンクラン「ドラゴン・シスターズ」のリーダーである。
ちなみに俺はそのクランの影の首領らしい。
「そうは言うけど……あんな場所に放置したら、野獣や魔物の餌になっちゃうよ?」
「餌にしてしまえばいいのです!」
「うーん……さすがにそれは却下かなぁ」
ミリアがここまで強硬な態度を取るのは、おそらくライラの身を按じているからだろう。
「皇帝陛下! 神聖帝国軍がライラ様のことを嗅ぎまわっている気配があるのです。この奴隷の中にも、スパイが潜んでいるかもしれません」
ミリアは、イゴローナックル将軍の奴隷を地下帝国に連れて帰った際に、一人行方不明者が出ていたことに対して大変な危機感を抱いていた。
さらに加えて、ここ最近のコボルト村周辺に出没する怪しい人影に、彼女の警戒レベルは最大限に引き上げられているようだった。
「うーん、そうかもしれないけど。さすがに放置というのは……」
そこから様々な議論を交わした結果、
・戦場から地下帝国へ連れ戻る際は必ず【幼女化】(意識も幼女)する。
・強制幼女収容所に収容。元の姿に戻った者を個別に尋問。
・スパイと判明した者は、処刑する。
ということで、決着がついた。
尋問も処刑もミリアたちドラゴンシスターズが請け負うことになったので、彼女たちの負担は増えることになった。
もちろん【幼女化】できるのは俺しかいないので、敵が奴隷を残して撤退する度に呼び出されることになる。俺の負担も相当増えた。
自ら望んだことで、仕方ないこととはいえ、正直言うと面倒くさいことこの上ない。
それもこれも、セイジュー神聖帝国がこの大陸で戦乱の火種を撒いているからだ。
妖異も悪魔勇者もクソくらえ!
だいたい新しい勇者はどうなんてるんだよ!
(ココロ:その件に関しましては、天上界でも現在検討を進めているところでございまして……)
(シリル:前向きに善処する感じです)
(何にもやってねーってことじゃねーか! もういっそのことミサイル満載の戦艦を召喚して、ババーンってやっちゃえばいいじゃん!)
(ココロ:そんな簡単に何でもポンポンって、転生や転移を行うことはできないんですよ)
(シリル:そう。戦艦まるごと転移させるなんて狂気の沙汰。次元の裂け目が開きかねない)
(戦艦はさすがに言い過ぎたかもだけど……)
ふと俺の中に疑問が浮かんだ。
(そういや毎日のようにネットスーパーで買い物してるけど、あれは問題ないの?)
(ココロ:ネットスーパーの仕組みは転生・転移とは違うので大丈夫です)
(シリル:あれは向こうの世界の情報を読み込んで、この世界の物質やマナで再構成しているだけです。次元を超えているわけではありません)
(ココロ:まぁ、その情報にも一応制限が掛かってはいるんですけどね)
(ネットスーパーで勇者を注文したりは……)
(シリル:できません)
(ココロ:そもそも勇者は販売されていません)
(知ってるよ! とにかく! 一刻も早く新しい勇者を連れて来てくれ! さっさと悪魔勇者を討伐しちゃってくれ! って、天上界にクレーム上げといて!)
二人は、プチ切れ気味の俺に引きながらも、とりあえず報告書に記載してくれることを約束してくれた。
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